hanicaはんきゅうグランドパス(高齢者専用定期券)
誰しも年を取るのは嬉しくないが、私は64歳のとき、65歳の誕生日をとても楽しみにしていた。なぜならば65歳になれば、hanicaはんきゅうグランドパス(高齢者専用定期券)が利用できるからだ。
私がいつも買い物に行くJR芦屋駅付近までの阪急バスの運賃は、往復で900円もかかる。そしてたまに神戸の繁華街である三宮までレッスン、買い物に行こうとすると、電車賃が往復プラス440円。つまり、三宮までの往復は1,340円かかる。
ところがこの高齢者専用定期券の1年分を購入すれば、年間41,900円払うことにより(来春からは値上がりする)、指定区間内なら阪急バスと阪神バスが乗り放題なのだ!
昔の阪神バスは臭かった
子どもの頃、私たちは神戸市灘区の国道2号線近くに住んでいたから、母とともに三宮へ買い物に行くときは、阪神バスを利用していた。
この阪神バス、当時ガソリンだか重油だか知らないが、車内には油の匂いが充満し、非常に臭かった。特に雨の日は匂いがひどかった。その匂いで気分が悪くなることもあったが、特に母にそのことを訴えた記憶はない。
私は息をつめて、口から呼吸をするようにして不快さと闘っていた。そして、考えることはたいてい、「もしそごうで(現:阪急)、お客さんが全部、品物を買ってしまったら そごうはどうなるんやろう」だった。
そのころの私には、商店の仕入れという概念がまったくなかったので、百貨店の在庫切れについて、心から心配していたのである。
なぜか母に叱られた
阪神バスではそごうのガラス戸がみえると、母がいつも、「さぁ、降りるんよ」と声を掛けてくれていた。
ところがなぜかその日、母が目を三角にしてこう怒ったのだ。
「いつまで座ってるの、降りなさい! どこで降りるかわかってるでしょ!」
私にしたら母が、降りなさい、と言ってくれないので、そのままの姿勢で待っていただけの話なのだ。
母の怒りを非常に理不尽なものに感じたが、当時の私には反論する語彙力もなく、ただしくしく泣くだけだった。あれから60年たっても、阪神バスに乗るたび、そのときの悲しさを思い出す。
後年、姉に、「なんであのとき、お母さんはあんなに怒ったんやろ?」
と聞くと、姉は、「そのときはそういう気分やってん」と言った。
そうかも。父は他の昭和の男たちといっしょで企業戦士だったから、ほとんど家にいなかったし、育児は今でいう、母のワンオペだったのだ。いくら私たち姉妹が、おとなしく聞き分けのよい子どもだったにしろ、いらいらすることもあったのだろう。
お母さん、本当にお疲れ様でした。
それでは、私の大好きな倍賞千恵子さんの澄んだ声で、「叱られて」をお聞きください。
節約の鬼に徹しきれない
ところで、阪神バスにのると芦屋から三宮まで45分かかるので、座ったお尻も痛く、時間がムダと感じるので、最近はもっぱらJRを利用している。昔と違って今の阪神バスはシートも美しく、イヤな匂いもまったくしないのだけれど。
JRの新快速に乗れば8分しかかからないしね。結局、節約の鬼に徹しきれないのだ。