「パパ・ママ」は英語ではなかったのか?
私が子どものころ、両親のことを「パパ、ママ」と呼んでいた。
私の世代、住んでいた地域では、「おとうちゃん、おかあちゃん」が多数派だったと思うが、その呼称はハイカラ好きな母の趣味にあわなかったのだろう。子どものころは、「パパ、ママ」は英語だと思っていた。
ところが、英語を習うようになり、また英語のドラマや映画に親しむようになってから、登場人物が父親のことを「ダッド」「ダディ」、母親のことを「マム」「マミィ」と呼んでいるのに気づき、私のアタマは混乱した。
「パパ・ママって英語とちゃうんやろか?」
これが、当時の私の素朴な疑問だった。
「パパ・ママ」はフランス語でもなさそうだ
大学で第二外国語としてフランス語を履修したが、この時代、大学では何も習わなかった。
私のせいでもあり、大学での教え方のせいでもある。
最初にフランス語会話を習ったのは、大阪のアリアンス・フランセーズという会話学校だったが、そこで日本語の父母にあたる仏語は別として、パパは「パパ」(Papa)、ママは「ママン」(Maman) というのを知った。
しかし「ママン」の発音は「マモン」にも近いが、「ママ」には当たらない。いよいよ日本語の「パパ・ママ」の語源がわからなくなった。
ザイール大使館で、同じ発音の「パパ・ママ」を知った
縁あって、後年私はフランス語を公用語とする、アフリカの国、ザイール(現:コンゴ民主共和国)の駐日大使館で働くことになった。そこでの思い出をひとつだけ記事にしている。
kuromitsu-kinakochan.hatenablog.com
不思議なことに、私はそこで日本語のパパ・ママと同じ発音を耳にすることになった。
詳しくは専門家の意見を聞かないとわからないが、当時私がそこで理解したことは、フランス語圏のアフリカ諸国では、ごく大雑把に言って、ムッシュー(Monsieur) の代わりにパパ(Papa)、マダム(Madame)の代わりにママ(Mama)が頻繁に使われているとのことだった。しかも多大の親しみと尊敬をこめて。
だから駐日ザイール大使はパパ・ンガンバニ、大使夫人はママ・ジャンヌ、その他、パパ・ミランガ、パパ・カヨロ、パパ・カヨロの奥さんは名前がわからないからママ・カヨロ。そして私はある程度親しくなったザイール(コンゴ)人からママ・ユメコと呼ばれるにいたったのである!
彼らは仲間内ではローカル言語を話すこともあるが、ローカル言語を解さない私の前では強いアクセントのフランス語を使う。だから普通に、私にむかって、
"Tu as passé un bon week-end, Mama Yuméko?"
(よい週末を過ごせたかな、ママ・ユメコ?)
と聞かれたし、子どももいず、まだ若かった私はママと呼ばれても、まったく嬉しくなかった。
今の日本で、「パパ・ママ」は優勢か?
ところで今の日本で、「パパ・ママ」は一番よく使われる呼称だろうか?
私には子ども、孫もいないので、確かなことは言えないが、「おとうさん・おかあさん」が優勢な気もする。ちょうど「おじいちゃん・おばあちゃん」の代わりに、いつのまにか「じいじ・ばあば」が優勢になったように。
言葉というのは、かくのごとく流動的だから、今でもフランス語圏のアフリカ諸国で「パパ・ママ」が使われているのかどうかは私にはわからない。
だからあのとき、「ママ」と呼ばれた稀有な瞬間を楽しめばよかった。どうせ、日本語でも「ママ」と呼ばれることはないのだから。