プレリュード4番は一見難しくなさそう
相変わらず、ショパンのプレリュードのなかから出来そうな曲を探す作業が続いている。
一番好きな8番が技術的に手にあまり、また老眼のせいで厳しいとなれば、他の曲を探すほうが賢明だ。そこで4番はどうか?ショパンの葬儀に使われた曲のひとつだけあって、ポロポロと涙がこぼれ落ちそうなメロディーだ。なのに技術的にはさほど難しくなさそうに見える:調号もシャープ1個だけだし、1ページにしかならないたった25小節だし、指も届きそうだし。
ピティナステップの難易度では範囲が広すぎる
しかしこれがそれほど簡単とは言えない曲であろうことは、容易に想像がつく。自分ひとりで弾いて涙を流すだけならよいだろうが、弾き方をよほど工夫しないと聴く人には何も伝わらないよね。問われるのは聞く人の涙を搾り上げるほどの表現力なのだろうか。
ピティナステップの難易度も応用7から発展1-4と範囲が広い、広すぎる。応用7の許容範囲と発展4の許容範囲ってどれくらい違うんだろう? これはちょっと実際に自分で受けてみて実験しないとわからないね。
セルジュ・ゲンスブルはプレリュード4番を拝借した
何事もひとによって感じ方はさまざまだが、この4番を聴いて明るくハッピーな気持ちになるひとがいるとはあまり考えられない。やはりこの曲が思い起こさせるのは、寂寥感、孤独、終わりのない悲しみ、堕ちてゆくような絶望感、心の隙間風、悲しくてやりきれない?(サトウハチローか!)
ところがこの曲にのせて、行方不明となった若い女性の人相書きの歌詞を書き、1970年代にヒットさせたかたがいる。フレンチ・ポップス界の奇才、セルジュ・ゲンスブル(Serge Gansbourg)だ。
歌ったのは彼のパートナーでマルチタレント、ファッションリーダーでもあるジェーン・バーキン。
ゲンスブルはすでに亡くなったが、バーキンは今でもELLE(エル)やMadame Figaro(マダム・フィガロ)の写真、記事に登場するセレブだ。この方面には縁がないせいか、私はあまり彼女のことを知らないのだが、独特のウィスパー・ヴォイス(ささやき声)が魅力的だと思うひとも多いと思う。
アイデアは面白いと思う、ジェーン・B.~私という女
ショパンのプレリュード4番に行方不明者の身体的特徴をあわせるとは、普通の人ならなかなか思いつかないと思うので、以下に歌詞を書いてみた。
Signalement
身体的特徴
Yeux bleus
青い眼
Cheveux châtains
栗色の髪
Jane B.
氏名:ジェーンB
Anglaise
イギリス人
De sexe féminin
性別:女性
Âge : entre vingt et vingt et un
年齢:20-21歳
Apprend le dessin
デッサン勉強中
Domiciliée chez ses parents
両親と同居
Teint pâle
色白
le nez aquilin
鷲鼻
Portée disparue ce matin à cinq heures moins vingt
今朝5時20分前、行方不明者として登録
ご近所さんがポルテ・ディスパリュ(Portée disparue)の疑い
実は先日、ご近所に住むフランス人の奥様がふらっと出かけたまま、まだ帰ってこない、との悩みを日本人のご主人からうかがった。お話によると、どうやら奥様は認知症を患っているらしく、最近こういうことがたびたびあるらしい。
私が「ジェーンB」を思い出したのは、このことがあったからなのだ。ご主人には申し上げなかったが、お話を聞いている間、私のアタマのなかで、「フランス人、女性、年齢70-80歳、色白、髪はグレー」という歌詞でプレリュード4番が鳴ったのである。
幸いなことに奥様はポルテ・ディスパリュにはならなかったようだが、他人のことよりも自分の身体的特徴を、まずは日本語で描写できたほうがよさそうだ:日本人、女性、年齢65-70歳、銀髪混じりの茶髪、黄土色の肌、団子鼻・・・もうイヤになったのでやめる。