ジャズピアノの振替レッスンを申し込んだ
ジャズピアノのレッスンもクラシックピアノと同じく、月2回のペースで受けているのだが、5月の第2回目のレッスン日は高校時代の友達と再会する日にあたるので、本来ならば受けられないはずだった。
高校時代の友達のうち、ひとりは東南アジアの「微笑みの国」に暮らしているため、そうそう会えるわけではない。
私のピアノレッスンごときで、いつ会えるかわからない貴重な友人と、語らう機会を逃したくはなった。
それで、ジャズピアノの先生には
「遠方からわざわざくる友達に会いたいので、今度のレッスンにはいけません。でも1回お休みしてしまえば、またカンが狂いそうな気がするので、できたら振替レッスンをお願いしたいのですが・・・」
と言うと、まあなんでも言ってみるもんだね。
先生は、
「ええよ! ほな木曜日に大阪のジャズバーまでこれる?午前中大丈夫?」
なんと太っ腹な先生なのだろう。
生徒側の一方的な都合にあわせて、先生はレッスンの空いている時間と場所を見つけてくれたのだ。
「それけどなぁ、ここ、ピアノがあかんねん。まず古いやろ。そのうえに、ジャズピアニストが叩きまくってるからな。ピアノが悲鳴あげてるようなもんやわ。がたがたで申し訳ないけどな。それでもよかったら」
まぁ、古いぶんには私は構いませんけど・・・そやけどがたがたで、悲鳴をあげているピアノってどんなんだろう?
ジャズバーのピアノは「壊れたピアノ」か?
沢田研二の古いヒット曲に、「時のすぎゆくままに」というのがある。
なかなか味わい深い曲で、日本のみならず海外でも知られているらしい。
この曲の冒頭の歌詞は、
あなたはすっかり疲れてしまい
生きてることさえいやだと泣いた
壊れたピアノで想い出の歌
片手で弾いてはタメ息ついた
なのだが、まさしく大阪のジャズバーのピアノはこの歌のモデルにぴったりではないか、と思った。
それに私が訪問した時間帯も午前中だったので、ちょうど夜は華やかな蝶に変身するその筋の女性が、午前中や昼間には疲れた肌をさらしているのと同じような雰囲気さえあった。
ピアノには「K.KAWAI」とあった
ところがだ。よっこらしょとピアノの前に座ると、ふと正面に「K.KAWAI」とあるのに気がついた。
これは現在、名声を馳せている「S.KAWAI」の前ヴァージョンともいうべきもので、河合楽器創業者の「カワイコイチ」氏を意味していると聞く。
「先生、これ昔はいいピアノだったのと違いますか?」
「そうや、僕はカワイのピアノ、好きやで。
ヤマハみたいにキラキラはしてへんけどな、なんか落ち着きがあるわ。
ベーゼンドルファーとちょっと似てるかなぁ。鍵盤は重いかもしれへん」
見たところ、鍵盤にはいささかの黄ばみがみられるようだった(タバコのヤニ?)
そして鍵盤と鍵盤のスキマが均等でないところも見られる。
鍵盤もそっと触ってみたら、ざらっとしている(ただ拭いていないだけかも?)
古びたピアノが奏でる柔らかい優しい音
でもさぁ、1曲目いきましょか、ということでいつものように先生がベースギターを構え、私が課題の「Emily」のイントロを弾き始めると・・・
ええ音やわぁ~~ 柔らかい優しい音やわぁ~~ 円みがあって穏やか~~
私はこのピアノがいっぺんに好きになった。
断っておくが、私はもともと耳がよくないせいか、それほどピアノの機種にこだわらない、というかこだわれない。
それが悔しいせいか、例えば「ヤマハのCXと比べて、シゲル・カワイがうんぬんかんぬんで、やっぱりスタンウェイはどうやらこうやら」とうんちくをのべるひとのことを(偏見かもしれないが、男性に多い気がする)「胡散臭いやっちゃ」と思っていた。
早いハナシ、「ホンマにわかっとんやろか?」と思っていた節もある。
いやぁ、ホンマにお判りなんでしょうね。きょうの私みたいに。
それほど、これまでの私の偏見を覆すほど、昭和時代に作られたK.KAWAIのグランドピアノの音はすばらしく、私好みであったのだ。
ジャズピアニストに叩きまくられているK.KAWAIちゃん、お疲れのところ可哀そうだなぁ、と思ったが、これも腕のいい調律師さんというか、専門のかたの手にかかれば、もっと音色が揃うのかもしれない。
ただ、ライヴが頻繁にあるため、休む暇がないんだろうね。
お気の毒と言えば、お気の毒だが、誰にも弾かれない、見向きもされないピアノに比べるとずっと幸せかもしれない。
私もまた機会があれば弾きに来るよ、K.KAWAIちゃん!