なぜかインヴェンション13番は得意だ
2回続けてバッハインヴェンションの苦手曲について書いたので、さすがに得意な曲はないものか、と探してみた。
あったよ、これが!イ短調=Amの13番である。
前もって言っておくが、これは私がこれまで弾いてきたインヴェンションのなかで、比較的、得意といえるかなというもので上手に弾けるというわけではない。
そしてどうして13番が得意と言えるかというと・・・
ふつうは合格まで3-4レッスンかかるのに、これは初回一発で合格した。
そしてイ短調=Amは弾きやすいため、私の大好きなキーである。
ところがこれを念のため、Wikiで調べてみると、(引用はじめ)ピアノで弾く場合は平行調のハ長調と同じく演奏をしにくい調のひとつである。(引用終わり)
わーーーッ ウィキペディアってやっぱりあてにならない!
CやAmなんかめちゃくちゃ弾きやすいではないか。
私はポップスだったら「ある愛の詩」「甘い囁き」「夢見るシャンソン人形」「恋のアランフェス」「白い恋人たち」「恋はみずいろ」「ドナドナ」「涙のトッカータ」などなど、なんでもAmで弾いてしまうよ!
13番はどこかで聞いたのかもしれない
この13番、メロディーラインというか、モチーフがはっきりしていることも弾きやすい理由のひとつではないかと思う。
ひじょうに明快なので、「えーと、次はなんだったかな?」ということがほとんどなく、自然に指が動いてくれる。
ひょっとして私は以前、どこかでこの曲を聞いたことがあるのではないだろうか?
テレビのCMや、映画音楽として?
そう疑ってネットを徘徊しているうちに、たどり着いたのが、1964年のフランス映画「悲しみの天使」(原題:Les amitiés particulières)だった。
映画「悲しみの天使」で使われたインヴェンション13番
この映画は、厳格なカトリックの寄宿学校に通う2人の男子学生が、教育者である神父たちの眼を避けて、プラトニックな愛をはぐくむものの、結局引き裂かれ、年下の学生が自殺するという悲劇に終わるストーリーである。
元ネタはロジェ・ペルフィットという元フランス外交官が、1943年に出版した自伝的小説ということだ。
映画では年上の学生が、盲目の神父からインヴェンション13番のレッスンを受けているところ(たどたどしくて上手くはない)、年下の学生がこっそりやってきて、神父がいなくなってから連弾を楽しむというもの。
偶然、この映画の全編をYouTubeでみつけたので(仏語:英語スペイン語の字幕あり)、フランス語の聞き取りの練習と思って全部見たが、正直あまり面白いとは思わなかった。そして過去に見たことがあるとは考えられない。
一応、ダイジェスト版でインヴェンション13番が流れる動画があったので、下に貼っておく。
萩尾望都氏の「トーマの心臓」
私自身はなんら面白いところを見つけられず、「ベニスに死す」と同じく美少年に魅せられる男性の気持ちなんてさっぱりわからないのだが、この映画に影響された人気漫画家がいらっしゃる。
氏は「悲しみの天使」で、自殺した少年に同情するあまりに腹を立て、「誰かが自殺したあとからはじまる物語を書いてみよう」と思い立ち、できあがったのが「トーマの心臓」ということだ。
フーン、芸術家はそうやってインスピレーションをえるのか・・・
残念なことに私が「悲しみの天使」で得たのは、インヴェンション13番が特に理由もなく好きだということだけだった!