ミュージカル映画の傑作「ロシュフォールの恋人たち」
これまでこのブログで映画「シェルブールの雨傘」について多分2,3回は記事にしているのに、同じカトリーヌ・ドヌーヴ主演、ジャック・ドゥミ監督、音楽担当ミッシェル・ルグランの「ロシュフォールの恋人たち」には言及したこともなかった。
なぜか?
「ロシュフォールの恋人たち」は音楽、美術はもちろん、アメリカからジーン・ケリー、ジョージ・チャキリスも招聘してミュージカル映画としてはこれ以上ないくらい豪華なのに。
たぶんこの映画のことを考えると、カトリーヌ・ドヌーヴと共演している実の姉、フランソワーズ・ドルレアックが25歳という若さで事故死したことを思い出し、なんとなく神妙な気分になるからだと思う。
そして、パリにでて成功を夢見る双子の姉妹が主人公、というありきたりな設定がじゃまをするのか、やっぱり私はどちらが好きか、と問われればシェルブールを推してしまうのだな。
それはまあいい。
しかし衆院選の争点のひとつとして「選択的夫婦別姓」に賛成か否かということも話題になっているので、そうなると私は「ロシュフォールの恋人たち」を思い出してしまう。
ダニエル・ダリューが歌うイヴォンヌの歌
主人公のソランジュ(フランソワーズ・ドルレアック)とデルフィーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)の母親(ダニエル・ダリュー)はロシュフォールでカフェを経営している。
彼女には昔、熱烈に愛し合った恋人がこの街、ロシュフォールにいたのだが、その男性の姓が耐えられず、別れも告げずに関係を絶った、というのである。
その歌のシーンを貼りたかったのだが、どれも著作権の関係でダメなようなので、歌だけ下にのせる。
尚、この映画中で吹き替えなしで実際に歌っているのは、この往年のフランス古典的美人女優のダニエル・ダリューだけである。
歌詞の大意は以下のとおり
私の昔の婚約者の名前が耐えられなかったの
だからさよならも言わずに彼の前から姿を消したわ。
私の双子の娘たちは寄宿舎にはいっていたから
彼のことは知らないけれど。
共通の友人を利用して、私は裕福なメキシコ人と結婚したと知らせたの。
だけどそれは悲しい嘘。
私はいまは独りぼっち
そして、もう20歳ではないから後悔しているの
婦人奥様はそんなに可笑しいか?
彼女のかつての恋人の、耐えがたき姓はというと、ダム(Dame: 女性、婦人の意味)。
つまり彼女は彼と結婚すると、マダムダムになるからイヤだったというわけだ。
それを聞いたカフェの客たちも「ハハハ!」を笑うので、フランス人にとっては笑える名前なのかもしれない。
しかし、マダムダムは訳すれば婦人奥様?
たとえば日本語だと「奥」という姓はそれほど珍しくなく、「奥さん様」でも笑えるほどではない。
逆に、ムッシューダムのほうが男性としてはちょっと抵抗があるかな?
選択的夫婦別姓は日本で実現するのか?
この映画が作られたのは1967年。
そして下記の記事によると、「つい20年ほど前まではフランスの女性たちも、結婚をしたら夫の姓を名乗るものだと思い込んでいる人が大半だった。」とある。
「それがここ10年ほどで、結婚しても夫の姓はあくまで通名であるという認識が広く浸透した。もちろんこのように認識の変化はあったものの、結婚したら夫の姓を名乗る女性が多いのも実情だ。」
とあるから現代ではこの「ロシュフォールの恋人たち」のネタは成立しにくいであろう。
さあ、果たして日本で選択的夫婦別姓は実現するのだろうか?