夢でささやくピアノ

クラシックピアノとジャズピアノの両立を目指す、ねむいゆめこの迷走記録

怖いもの見たさにはたまらない中野京子さんの「怖い絵」

         中野京子 「怖い絵」より 朝日出版社

中野京子さんの「怖い絵」シリーズ

私が勝手に山田五郎さんと同じように、美術史の先生、とさせていただいているのが中野京子さんで、今凝っているのが「怖い絵」シリーズである。

「怖いもの見たさ」ということばがあるが、ひとは多かれ少なかれ、怖いものに吸い寄せられる性質があるのではないだろうか?こういう私も、実は怖いもの大好き、なのである。

特にサスペンス物は大好きで、これでも宮部みゆき東野圭吾両氏のものはほとんど読んでいる(でも、いつのまにか、東野圭吾氏の書くペースのほうが私の読むペースより早くなってしまった)。

けれども、映画を観ていて残酷なシーンとなると、手で顔を覆うか、タオルを頭からかぶってしまうので、「見た」とは言えない。要するに、日常のなにげない一コマで、ふと感じる戦慄というか、よく考えてみると、じわじわくる背筋が凍る怖さ、にどうしようもなく心惹かれるのだ。

その意味で、中野京子さんの「怖い絵」シリーズはうってつけなのだ。きょうはその中で特に印象的な2点をご紹介。

アルテミジア・ジェンティレスキ『ホロフェルネスの首を斬るユーディット』

中野京子「怖い絵」 朝日出版社

この絵は文字通り、最初は怖すぎて正視できなかった。今でも怖いので、サイズをぐっと小さくして貼ってみた。ユーディットは旧約聖書外伝に登場する、古代ユダヤの女性。侍女とともに、敵地に乗り込み、アッシリアの将軍、ホロフェルネスをその性的魅力でたらしこみ、酔いつぶれた彼の首を切断して町へ持ち帰った、とのこと。

なんとこの絵の作者は17世紀前半イタリアに生きた、アルテミジア・ジェンティレスキというという女性なのだそうである。世界史上で、こんな凄い迫力のある大作が描ける女性がいるなんて、少なくとも私の時代では、学校では習わなかった。

彼女は15歳のときにレイプされ、裁判に持ち込んだが、相手側の言い分を確かめるため、被害者であるにもかかわらず、身体検査をされたり、「シビラ」という指を紐で締め付ける拷問まで受けたという。

指を紐で締め付ける?それじゃ、ピアニストだったらもうピアノは弾けないよね!?

ジョルジョーネ『老婆の肖像』

中野京子「怖い絵」 朝日出版社

この絵の作者、ジョルジョーネの活躍したルネサンス期では、老女の図が驚くほど大量生産されていたそうである。同時に乙女の美はもてはやされ、賞賛され、その若さと比較することでよけいに老女を辱め、貶めたとか。

ルネサンス人は肉体美と運動能力を人間評価の重要な鍵としたため、老醜はこれでもか、というくらい軽蔑、罵倒されたという。なんだ、ルネサンスっていやな時代なんだ。学校で歴史を習ったときは、ルネサンスって暗黒の中世から抜け出した人間讃歌の時代で、すばらしい時代だと思っていた。

さらに中野京子さんは続ける。現代日本も老いへの敬意を捨て去り、老人は悲惨で邪魔な存在でしかなくなっているのではないか、と。日本人口のうち、65歳以上が3割に達しようとしているのに、生産性もなく、汚いだけの世代は忌み嫌われるのか・・・背筋がぞっとしてきた。

山田五郎さんと中野京子さんの掛け合いが面白い

文体から想像していた中野さんは、中村紘子さんのような東京山の手上流婦人だったが、山田五郎さんとのYouTube動画でみるかぎり、もっと気さくで親しみやすいかたとお見受けする。

この動画も非常に面白かった。「父の訓戒」という絵の題名がとんでもない嘘っぱちであることを、おふたりが絶妙トークで暴いてくださる。

まさに、子どもにはちょっと聞かせらせない、でも大人の真実を、絵は語ってくれるのだなぁ、と実感した。    

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