
「真夜中のピアニスト」はスリラー映画なんかではない
2005年のフランス映画「真夜中のピアニスト」(De Battre mon Coeur s'est arrêté)を見たのはずいぶん前で、当時はそれなりに感動したのだが、なにせピアノに埃をかぶっていた時代に観た映画である。
それなりに練習している今なら感じ方が違うのでは?と思い見たのだが、見てよかった!
ピアノを趣味とするみなさん!
これはAIが分析してくれるようなスリラー映画ではまったくない。
これはいろいろと自分の道を迷っている青年がピアノを再開したとたん、自らの進むべき道を悟った!という映画だと思う。
そして10年ぶりに再会したピアノでスターになれた、という映画ならそれは子供だましである。
本作はピアニストではない道を見つけた、というところがリアルでいいではないか!と思うのだがどうだろうか。
ある日ピアノへの情熱が蘇った
主人公のトマ(ロマン・デュリス)は悪徳不動産ブローカー。
皮ジャンに身を包み、始終煙草を吸い、地上げ屋みたいな手荒いこともやり、聞く音楽はエレクトロ、とクラシックピアノとはまったく縁がないような28歳の青年である。
しかし亡くなった彼の母はコンサートピアニストであり、彼自身もピアノをよくしたのだった。
母の元マネージャーから偶然、「オーディションを受けて見ないか」と誘われたトマは忘れていたピアノへの情熱を思い出す。
仲間と飲んでいてもバーのカウンターでエアーでピアノを弾くぐらいの熱の入れよう。
そしてパリに着いたばかりの中国人ピアニスト、ミャオリンに師事することになるのだが・・・
共通言語がない師弟のレッスン
ミャオリンを推薦したすごい中国訛のフランス語を話す中国人によると、ミャオリンはコンサートピアニストのレッスンも引き受けるほどの凄腕ピアニストらしい。
しかし彼女が話せるのは中国語、ベトナム語と簡単な英語。
フランス語が話せないと知ったトマはほとんど驚愕するが、なに、言語の違いはさほどレッスンに影響しない。
たとえばミャオリンはトマの肘を持ち上げ、ゆっくりと降ろす仕草をし、「ターオ」に聞こえる言葉を発する。
これって「脱力して」みたいなこと?
あるいはトマの肩を揺さぶったりする。
トマはもう、首から肩までコチコチなのだ。
しかしミャオリンは妥協を許す教師ではない。
同じフレーズを何回もトマに弾かせ、冷酷な表情で「Again!」を繰り返す。
しまいにトマは切れてしまい、「なんで同じことばっかりやらせるねん!」と怒鳴るのだが、ミャオリンも負けてはいない。
中国語で見事に言い返すのだが、残念ながら私のみたDVDには中国語字幕がついていなかったので、想像に任せるしかはないのだ。
「そうかて、あんたはちっとも私の言うとおりに弾いてへんやん!
それやったら何べんやっても一緒やわ!」みたいなこと?
3度失敗したらそりゃダメでしょう
さて猛練習を重ねたトマがオーディションで弾いたのはバッハのトッカータ ホ短調なのだが、あれあれ、しょっぱなから間違えてしまう。
この場面、自分のことのように胸が痛くなる。
「練習では弾けたんです」と、母の元マネージャーに言うトマ。
そうそう、私もこれ、しょっちゅう言いたくなる。
しかし3度失敗したところで、トマは潔く退出。
あーあ、真夜中に練習を重ねたピアニストはついにプロピアニストになれなかったのだ・・・
トマは公私ともにミャオリンのパートナーに
しかし2年後。
彼はミャオリンのハートを射止め、彼女のマネージャー役も務めているらしい。
ホールのピアノも調整し、スケジュールを彼女と相談し、ミャオリンはすっかり彼を頼り切っているようだ。
もちろんフランス語もうんと上達している。
どうかトマにはこれからもミャオリンを護るナイト役を生きがいにしてほしい。
女性にはきわめて手の早いトマのことだから、この関係が続くのかどうか若干心もとないのだが、それでも黒髪の美しいアジアンビューティーのお手本のような純粋無垢な女性、そして才能あふれるピアニストであるミャオリンを悲しませてほしくないものだ。
