師は移動ド派か、固定ド派か?
きょうのジャズピアノのレッスン。
スタジオにつくと、ニコニコ顔の師から(いつもニコニコしているが)、
「もうすぐアンサンブルやねぇ、がんばらなあかんねぇ」
と声を掛けられた。
「がんばってますよ、もちろん。黒本の歌物は全部、予習したし」
といいたいところだったが、それだけやっても結果が伴わないと元も子もないので、それはいわなかった。
ただ、
「初見が怖くて怖くて。どうしたらいいでしょうかねぇ」
とだけ言っておいた。
そしてふと、師は譜面を読むとき、移動ドで読むのか、固定ドで読むのか、訊いて見ても失礼にはあたらないだろう、と思いついた。
移動ド・固定ドよりもまず場数
それは次回のレッスンでの課題曲として、コール・ポーターの「I love you」のコード譜を渡されたときだった。
この曲はたまたま、先日予習したうちの1曲だったので、なんとなくアタマにはいっている。
私は言った。
「先生、これってキーはFですよね?
この譜面をポンと渡されたら、先生は移動ドで読みますか?固定ドで読みますか?」
すると師は、
「ピアニストは移動ドで読まへんやろ。だいたい。
えーと、これを移動ドで読むとすると・・・ソソーーーえっと・・・ラ?」
なんと私と似たようなスローな返答だったのだ!
続けて師は言う。
「あんなぁ。初見ゆうのは『場数』やねん。
場数を踏んだらできるようになるもんやねん。
僕なんか、駆け出しの頃、バンマスは『イントロは4小節!』ぐらいしかゆうてくれへんかったわ。
それで途中でキーもわからんようになってな。
歌手は『ヒェーーーー』みたいな声出すしな。
ようあれでおカネもらったなぁ、思うわ」
という昔話になってしまった。
コール・ポーターの天才ぶり
そうか、これからはもう、移動ドにこだわる必要はあまりないのかもしれない。
と私はアタマのなかで忙しく考えていたが、師の思考は「I love you」の作者であるコール・ポーターの天才ぶりに行ってしまっていた。
コール・ポーターはアメリカの作曲家で、イェールとハーバードでも学んだ秀才。
彼の残したスタンダードナンバーは数多いが、現代の日本人にもなじみが深いのは、「ナイト・アンド・ディ」「あなたはしっかり私のもの」「ビギン・ザ・ビギン」「ラヴ・フォー・セール」といったところか。
師は興奮気味に続ける。
「これ、キーはFやのに、最初のコードはGやねんで! どう思う?
ふつうありえへんやろ? それからドからbレに飛ぶねん。
長7度か? すごいな!」
なるほど、ドからbレは、ピアノならなんの苦労もなく飛べるが、ボーカリストは大変かもしれない。
コール・ポーターの伝記映画「五線紙のラブレター」
ところで、コール・ポーターの伝記映画があったのだが、私はまだ見ていない、ことを思い出した。
「五線紙のラヴ・レター」(原題:De-Lovely)である。
なぜ見ていないか、というと機会がなかったのもさることながら、コール・ポーターはゲイだったので、夫ちゃんが「オ○○のハナシはもういい」と難色を示すからである。
でも彼の生きた20世紀前半は、私の好みの時代なので、配信の無料体験を利用して、絶対みようと思うのだ。
近いうちに! 私ひとりで!