クリスマスに別れた彼氏に再会するなんて
世の中にクリスマスソングは数多くあるが、根拠のない「ねむいゆめこ統計」によると、その背景の90%は「恋人たちのクリスマス」「ママがサンタにキッスした」「恋人がサンタクロース」に代表されるハッピーソングだと思う。
あとの10%は、山下達郎の「クリスマスイブ」やワムの「ラストクリスマス」のように、待っているけど彼女はこないとか、ふられて未練たっぷりの失恋系。
でも昔別れた彼氏に再会するクリスマスがシチュエーションの歌って聞いたことがない。そんな映画やドラマも見たことがない、といいたいところだが、それがあるのだ!
それこそ、私の大・大・大好きな1964年の全編ミュージカル・フランス映画「シェルブールの雨傘」なのである!
映画「シェルブールの雨傘」のあらすじ
「シェルブールの雨傘」をごらんになっていないかたのために、ざくっとあらすじを・・・
フランスの港町、シェルブールの傘屋の娘、17歳のジュヌヴィエーヴ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は自動車修理工のギィと将来を誓い合った恋仲。しかしギィはアルジェリア戦争で出征し、身ごもったジュヌヴィエーヴは彼の帰りを待つ身の不安から、お腹の子をいっしょに育てようと熱烈に求愛する宝石商カサールと結婚する。それから4年・・・ギィが幼馴染のマドレーヌと営むガソリンスタンドで、彼の子を連れたジュヌヴィエーヴがクリスマスを間近に控えた雪の夜、偶然に再会する・・・
この再会のシーン、何度見てもいい。なぜかというと、それまでのジュヌヴィエーヴ役のドヌーヴは、きれいではなあるけれど、どこにでもいるきれいめな女の子だ。しかし、この場面では金持ちの宝石商と結婚した証か、毛皮のコートに身を包み、髪を華やかなアップにしたドヌーヴは息をのむほど美しい。ぜひYouTubeでこの場面をごらんいただきたい。
女はまったく再会を期待していなかったのか?
ジュヌヴィエーヴはこのとき、「結婚以来、シェルブールに戻ったのははじめてだ。アンジューの義母から娘を受け取って、パリに戻る途中で寄ってみた。あなたに会うとは思わなかった。」といっている。私はずっとこれを真に受けていたが、最近これは違うのではないか、と深読みしている。
だって、アンジューからパリまで車で3時間かかるのに、シェルブールまでいったらまたプラス3時間はかかるのだよ!クリスマスまで日にちがないというのに、夜の雪道をドライヴして?私はある程度、ジュヌヴィエーヴはギィに再会することを期待していたんではなかろうか、と勘繰っている。
「Tu vas bien?」 の用法について
別れ際にジュヌヴィエーヴは、「Toi, tu vas bien?」と聞き、ギィは「Oui, très bien.」と答える。私はこういうときにも、「tu vas bien?」を使うのか、とちょっと感心した。
普通なら「あなた、元気ィ」と訳して問題ないのだろうが、この場合、日本語では「いまは幸せなの?」というニュアンスがはいっているように思うのだが、どうだろうか?
これはハッピーエンドといえるのかもしれない
結局、ギィは自分とジュヌヴィエーヴの子どもには会わなかった。ジュヌヴィエーヴの帰りを促したのもギィである。彼女が去ったあと、妻のマドレーヌと息子が買い物から帰ってきて、親子は楽しそうに雪遊びをするのだ。これってハッピーエンドらしくないけれどハッピーエンド?
戦争のせいか、運命のいたずらで、お互い違う人と結ばれることになったけれど、「これが人生、C'est la vie、というものさ」と監督・脚本であるジャク・ドゥミが言っているような気がする。クリスマスというシチュエーションにもかかわらず、甘いような苦いような酸っぱいような、なんと形容してよいかわからない人生の断片を見せてくれる、こういうフランス映画らしいところが私は大好きなのだ!