これまでお付き合いのあったピアノ調律師さんたち
私が覚えている限り、ウチには今まで6人の調律師さんが家にきてくださった。
そのうち、2名は若い女性。
あと4名のうち、2名が50-60代の男性で、残りの2名が30-40代の男性である。
このうちいちばん長いお付き合いがあったのが、Kさんという若い女性。
最初に会ったときは20代くらいではなかったのかなぁ。
でも10数年間きてもらっていたから、今では30代から40代に手が届くお年頃かもしれない。
Kさんは調律が終わりかけ、または終わってから必ず2,3曲は弾くのだが、これが非常にうまくて、私と同じピアノを弾いているとはとても思えなかった。
聞けば子ども時代には、妹さんとともに桐朋学園大学音楽部付属の子どものための音楽教室に通い、プロのピアニストを目指していたそうである。
ところがどういうわけかその後、姉のKさんは調律師の道を選び、妹さんはプロの道を進んだ。
「妹にはいつも『ここを直しといて』『あそこをなんとかして』と好き勝手なことを言われます」
と笑って話していたこともあった。
気心が知れるまで時間がかかった本当の理由
Kさんとは調律の年1回会うだけだったせいかもしれないが、気心が知れるまでずいぶん時間がかかった。
第1にKさん自身、あまり人好きのするほうではなく、こちらが腐心して話題を振ってもあまり乗ってこなかった(このあたり、私を担当する美容師さんの気持ちがよくわかる)。
第2にひょっとしてこれが一番の理由かもしれないのだが、彼女のピアノがうますぎて私はすっかり萎縮してしまい、彼女の前では調律後の試し弾きもしたことがなかったのだ。
ところで調律師さんは、みなピアノが弾けるのだろうか?
みなさん調律の最中にスケールとか弾かれるが、滑らかで粒が揃っていてすごくない?
唯一例外とも言えるのが、現在来てもらっている40代くらいの男性の調律師さんである。
彼は最初からはっきりと「ピアノは弾けません」と明言し、私をほっとさせたのである。
いやぁ。私も人間が小さいね~。
ピアノが弾けない調律師さんの前ではリラックスし、激ウマ調律師さんの前では縮こまっているなんて度量が狭すぎる、と反省したものだよ。
せっかく仲良くなったのに意外なお別れが
打ち解けるまで時間がかかったKさんとも、最後の2年ぐらいは楽しいおしゃべりで盛り上がった。
おたがいに今聴いている曲を聴きあったり(クラシックだけではなかった)、フィギュアスケートでBGMがクラシックの場合、なんで全然あわないところでジャンプするんだろうとか、音大ではバッハのインヴェンションなんかやらないから、妹はどう教えていいのかわからなくて困っている、などなど。
だから引っ越しのため、もうKさんに調律を頼まないことを告げるのは、いささか心苦しかった。
ところがそのハナシをした調律の最終回、意外にもKさんは「聴力に問題が発生し、いつまでかわからないが、調律の仕事をやめることになった」と言うのだ。
そして実に晴れやかなお顔で、
「長い間、本当にお世話になりました!」とお礼を言われてしまったのだよ。
Kさんが教えてくれたシューベルト即興曲作品90-3
Kさんの調律後レパートリーのひとつにシューベルトの即興曲作品90-3があった。
私は彼女の演奏を聞き、まさしく天上の音楽かと思うぐらい感激した。
そしてウチのアップライトピアノでもあんな音がだせるのか、とビックリしたのだが、今思えば彼女のソフトペダルの使い方が絶妙だったのかもしれない。
その後、私もクラシックピアノのレッスンを再開してからこの曲をレッスンでやって合格をもらったが、今ではミスタッチ満載でしか弾けない。
でもこの曲を聴くたび(弾くたび)、「Kさん元気でいるかなぁ。調律の仕事はどうなったのかなぁ。調律でなくても音楽関係の仕事をしていればいいなぁ」と願わずにはいられないのである。