演奏会までの最後のレッスン日がきょうだった
「英国音律音楽検定の課題曲を弾く演奏会」まであと1週間。
きょうはそれまでの最後のレッスン日なので、暑いながらも気合を入れてレッスンに向かった。
ところで、今年の春まで習っていた先生のところでは、持ち時間は30分しかないため、雑談はほぼゼロだったが、今では少なくとも45分という時間が自分に与えられ、それも15-20分は軽くオーバーしてよいみたいだ、というのがわかってきた。
となると、到着早々ピアノに向かうのも野暮である。
まずは冷たいお茶をいただきながら、小話の提供でもと思い、私は兵庫県三田市のホールで、スタンウェイを弾く企画に先日いってきた話を披露した。
すると先生は、
「あんな田舎までよく行ったわね~ 行動力があるわね~」
と私を褒めた(?)あと、スタンウェイの弾きごこちについてしきりに私の感想を聞きたがった。
先生もスタンウェイの弾きやすさについて異論があるわけではなく、私があーだこーだというのを、熱心に聞いてくださったが、
「やっぱりいろんなピアノを弾いてみるのがいちばんよね!
私こんど、Shigeru Kawai の試弾会に梅田のカワイまで行ってくるの!
ゆめこさんもどう? Shigeru Kawaiって素晴らしいらしいわよ!」
Shigeru Kawai の試弾会とは?
Shigeru Kawai とは、河合楽器製作所の二代目社長の名を冠したカワイの最高級グランドピアノである、というのが私の知っている全てであって、それ以上のことは何も知らない。
きょう先生が教えてくれたところによると、キャンペーン期間中、前もって申し込むことによってそのShigeru Kawai が最長1時間も弾けるそうである。
私は、
「それはいいですねぇ」
と言いながらも、
「でも絶対に私、買えませんし。
なのにそういうのに一度行ったら、その先ずっと営業の人につきまとわれそうだから、やめておきます」
すると、先生は
「私だって絶対買わないわよ。
でもね、カワイってやっぱりヤマハに次ぐ2番手じゃない?
だからね、営業の人がギラギラしていないの。
それほどうるさく言われないわよ!」
ああ、可哀そうなカワイの営業人!
私はおそらく、試弾会の申込者リストを手に、買う見込みのあるひと、押せば買うかもしれない人、買いたいのだろうが資金繰りが厳しい人、単なる冷やかしの人、などなど、自分流にマークをつけてトーク練習をするであろう、カワイ楽器の営業人のことを想像し、胸が苦しい思いがしてきた。
そしてそういう熱心な営業人のカモにされそうなのが、私みたいな人間で、ついつい「そんなに親切にしてもらったら悪い」と思い、それほど欲しくもないのも買ってしまうハメになる。
とはいえ、グランドピアノは絶対に買えない。
だって、物理的に置く場所ないもん。
もしも一人暮らしだったら、グランドピアノの蓋の上でご飯を食べるかもしれないが、美意識の高い夫が許すはずがない。
だから最初からは近寄らないのが賢明なのだ。
芸術家は太っ腹だ!
面白いことに、先生は「絶対(グランドピアノを)買わない」と言っておきながら、
「今度買うのだったら、スタンウェイかベーゼンドルファー!」と言っている。
案外こういうのだったら押すツボがはまったら、営業人も落とせるかもしれない。
そしてさらに面白いと思ったのが、これだけ大きな買い物をするかもしれないひとが、年金の支給開始年齢を今まで知らずに過ごし、これからやっと年金が受け取れるといって大喜びされていることである。
え?
私なんか60歳になる前から、毎日見込み年金を計算しては、退職日を数えていたのに・・・
やっぱり好きなことを仕事にしている芸術家は太っ腹なのだ!