「ピアニストという蛮族がいる」の巻末付録
私が図書館で借りた中村紘子さんの「ピアニストという蛮族がいる」(文藝春秋)の巻末には付録がついていて、それにはショパンの手の実物大、ラフマニノフの手の大きさを示すためのピアノの鍵盤図が紹介されている。
私はこの本自体、昔文庫本を持っていたのだが、その文庫本にはこのような付録はついていなかったと思うのだが?
単に忘れてしまっただけなのだろうか?
不思議に思ってアマゾンのカスタマーレビュー(中公文庫)も調べたが、あるかたのレビューに「以前持っていたハードカヴァーには付録がついていた」とあるので、文庫にはスペースの関係でついていないのか?
だとしたらまったく残念だ!
なぜならショパンやラフマニノフの手、および19世紀ごろにはよく使われていたらしい拷問器具のような指の強化器具の写真は、この本が出版されてから30年以上たった今も、ピアニストという蛮族や、蛮族予備軍の興味を引くこと間違いないだからだ!
ラフマニノフの手の大きさがよくわかる
よくピアニストの手の大きさを示すのに、「10度届く」とか「9度がせいいっぱい」とかいう表現が使われるが、実際のピアノ曲では親指と小指の間に押さえなければならない音が2つや3つがあるのが普通だ。
だから単純に、親指のドから小指で次のミまでが届く人でも、あいだにはいる音によってはミまで届かないこともあるから、単純に「私はドから次のミまで届きます」「わぁ、いいね!」という図式にはならないのである。
ところがラフマニノフはすごい!
中村紘子さんの著作を引用すると、
ラフマニノフは右手の人差し指でド音、中指でミ音、薬指でソ音を押し、次に小指でオクターブ高いド音を押さえ、更にこの四本の指を鍵盤から離すことなく親指をその下にくぐらせて、小指のド音の先のミ音をポンと弾いてのけた、という
ご自宅に鍵盤楽器があるかたは簡単に試してラフマニノフのすごさが実感できるが、ないかたでも「どれ、どんなものだろう、やってみようか?」と付録の鍵盤図に自分の指を載せ、「ひぇ~~」となるだろう。
まことにこの付録は親切な、というか気の利いた付録だと思う。
「ショパンの手」にはいろいろあるのか?
さて実物大とされるショパンの手。
筆者によると石膏で型どったもので、ワルシャワのショパン協会で記念に買ったということだ。
有名ピアニストが買ったぐらいだから、彫刻家のオーギュスト・クレサンジェ(ジョルジュ・サンドの娘婿)がショパンの死後、すぐ型をとったもののレプリカだと思われるのだが、なんか小さくないか?
手をいわゆるパーのかたちにしているのではないので、よくわからないが、私の手と重ねてみると、ほぼ同じぐらい。
中村紘子さんも「どちらかといえば小さい私の手より更に小ぶりで、とてもピアニストの手であるとは思えないほど」と書いている。
ところがショパンの手をお持ちの方のネット記事を漁っていると、「○○さんが持っているショパンの手は、私のより華奢だ」というのもあった。
ひょっとして製作を請け負っている会社のほうで小さいヴァージョンも存在するのか?
ウーン、なんか気になるな。
こういうのがいろいろあるようじゃねぇ。
しかし中村紘子さんはそこに疑問を持たず、ショパンの手は華奢で指も繊細で、それを使って今までのピアニストにはなかった独創的な作品を生み出している、と賞賛している。
小さな手でも大きな手でも弾けるショパン
実際のショパンの手の大きさには疑問が残るが、それでは手の小さい人とショパンの作品との相性はどうなのか、というと、手の小さいことでは有名なピアニスト、マリア・ジョアン・ピレシュが次のように言っている。
ショパンは小さな手でも、それほど苦労はありません。音楽としてショパンはピアノにとってとてもよく書かれた作品です。つまり彼はピアノという楽器を非常に深く知っていたから、小さな手でも大きな手でも、弾けるようになっています。
www.happano.orgomou
そうなんですね、ピレシュ先生。
これからは、弾けないのを手の大きさのせいにするのはやめようと思う。