「ピアニストという蛮族がいる」を再読したきっかけ
ドホナーニという退屈きわまる、しかし指の練習には絶大な効果をあらわすという練習曲集のことは以前にもこのブログの記事にしている。
kuromitsu-kinakochan.hatenablog.com
しかし、最近では「あれ、そういうのもあったかな?」というぐらい忘却の彼方にいってしまった。
ところが「中村紘子さんも過去にはドホナーニに悩まされた、というのが著作の『ピアニストという蛮族がいる』に書いてある」という記事を読んだ。
あれ、おかしいな?
この本は昔々に文庫本で買い、そのあと断捨離してしまったはずだ。
しかしドホナーニに関する記述はさっぱり覚えていない。
そこで私は図書館でこの単行本を借り(文庫本は置いていなかった)、ドホナーニに関する記述を探してみた。
ところがその箇所は全278ページ中、223ページ!
つまり私はこの箇所を探し当てるために、本のほとんど全部を再読し、そして最初にこれを読んだ20数年前には何もわかっていなかったことに気がついたのである!
ひょっとしてラフマニノフさえ知らなかった可能性もある。
だって20数年前は、ラフマニノフなんてピアノ学習者がチャレンジする作曲家ではなかったはずだし。
中村紘子さんとドホナーニの練習
私が探していたドホナーニの箇所は以下である。
中村紘子さんの文章では現在、一般に表記されている「ドホナーニ」ではなく「ドフナニー」となっているのて、あやうく見逃してしまうところだった。
(中略)それから半年、私はドフナニーという世にも恐ろしく退屈な指の教則本-それはチェルニーやクレメンティの教則本のような音楽の体さえも成していなかった-を与えられ、くる日もくる日も指の形、手首の高さ、指のあげ方さげ方、などということばかりを中心にやらされる羽目になってしまった・・・
残念ながらこれだけなので、中村紘子さんがどれくらいの期間、何番を練習されたのは全然わからなかった。
「ピアニストという蛮族がいる」は今でも面白い
しかし再読してみて思ったのだが、当時のクラシックピアノ界(有名ピアニストはほとんどユダヤ系と著者は言っている)と今(中華系の活躍がめざましいのでは?)と隔たりがあるというものの、この本には面白く興味深い情報、そして現代人がもう忘れ去ってしまったようなエピソードが満載である。
特に興味が弾かれた点をあげれば、こうなるだろうか?
- 日本最初のピアニスト、幸田延(こうだのぶ)は明治の日本から未来都市ウィーンへ出かけたタイム・トラベラー
- 最初の純国産ピアニスト、久野久はどういう弾き方をして「指先が破れて血がほとばしり出た」のか
- パデレフスキーはどうやってピアニストからポーランドの首相になったのか?
著作にCMに大忙しだった中村紘子さん
ところでこれほどまでに読ませる文章をお書きになり、著書も数冊と文才も発揮されている中村紘子さんだが、実は夫君の庄司薫氏が彼女のゴーストライターだったのではないか、と噂されることが多かった。
私は違うと思うけど。
だって文体が違いすぎるし。
それから出演しているCMやテレビ出演が多くて、「本当にピアノの練習をしてるのかな?」と思うこともあり、「CMにでるひまがあればピアノをさらえ!」と書いていた辛口の批評家もいた。
下の動画は特に懐かしいカレーのCMで、中村紘子さん自身が演奏している曲はウェーバーの「舞踏への招待」である。
余談だが、最近では「舞踏への勧誘」という訳が多いようだ。
しかしなぜ「勧誘」なのか?
「勧誘」と言われれば、生命保険ぐらいしか思い浮かばない。
「招待」のほうが絶対いいと思うんだけどなぁ。