最初のトリルでレベルがわかってしまうプレリュード
今やっているバッハ パルティータ1番プレリュードは、コンクールの場合、最初のトリルだけで合否が決まってしまうのではないか、とすら思える。
審査員でもない私が言うのもなんだが、ここの部分を聞いただけで、奏者の演奏レベルがわかってしまうのではないか。
つまり下の赤丸をつけたところだが、私がYouTubeの動画の範囲内で調べたプロは、みな上からで、ド♭シド♭シラ♭シと弾いている。
私も最初は頑張ってまねをしていたが、あまりにも音が不ぞろいなので、あきらめた。
現在では、同音からの♭シド♭シラ♭シと弾いているが、それでも、
- きれいじゃない!美しくない!のがほぼ70%
- なんとか耳が肥えていない人ならだませるのが20%
- 「けっこうええんとちゃう?」とほくそ笑みたくなるのが10%
つまり勝負の世界で通用するのはたった1割だから、1割打者ではどうにもならん。
ハーフタッチという和製英語に八つ当たり
自己分析すると、たぶん完全な脱力ができていないせいで、トリルが重く、つぶれたような音になるのだと思う。
これを改めるにはいわゆる「ハーフタッチ」を取り入れるといいのではないか?
この「ハーフタッチ」というのはネット情報を漁っているときにでてきた語句で、これまで聞いたことはなかったが、いわんとすることは、なんとなく察しはつく。
確認のために、一応下の動画は視聴した。
しかしね、私は最近の和製英語には辟易としているのだ。
「フレイル」やら「ダイアベティス」とか、もうわけわからん。
漢字の4文字熟語のほうが、もっと多くのアイデアを盛り込めるのに。
「これ、和製英語ですよね! 私、一応『Half-Touch』で検索してみましたけれど、英語では何にもでてきませんでした!」
と先生に訴えると、
「要するに、楽に、軽やかに弾けばいいんですよ。
指をできるだけ鍵盤から離さないで、指の動きを最小限にして。
一度、チェンバロで弾いてみます?」
ということになったのだ。
初体験のチェンバロでトリルを弾く
先生宅にはヤマハのグランドピアノ2台、アップライトピアノ1台のほか、オルガンもチェンバロも設置されており、これには体験レッスンのおりに、
「おお! すごい!!」
と思ったものだ。
そしていつか私がピアノ、先生がチェンバロというアンサンブルができればいいなぁと夢想していたのだが、まさかレッスンで試弾する日がくるとは思わなかった。
それで、おそるおそるチェンバロの鍵盤に触れてみると・・・
かるーーーい。
ピアノに比べるとまったく弾いている気がしない。
そして鍵盤の奥行がピアノに比べて短く、幅も狭い。
「こりゃ、女性でも小柄な人向きだな」
と思った。
こんな楽器をラフマニノフのような大男が弾こうとしたら、いっぺんに鍵盤3つくらいを押さえてしまうだろう。
このかるーい鍵盤のチェンバロでトリルを弾こうとすると、さらにかるーく弾かないとつぶれたような音が出てしまう。
ピアノに使用する力の半分ぐらいの力で、まるで小鳥ちゃんのアタマをなでるように触らないと、あのチャラチャラチャラのような音がでないのだ。
トリルの弾き方の試行錯誤を続けること数分間、それからピアノに戻ると・・・
チェンバロではトリルのごまかしが効かない
不思議なことに、チェンバロでトリルに成功すると、ピアノでも成功するのだ。
そしてピアノで「ま、いいか!」ぐらいのトリルだと、チェンバロではぐちゃぐちゃっとした音になっている。
そして、ピアノでぐちゃぐちゃっとしたトリルでは、チェンバロではもう全音が塊みたいになっている。
要するにピアノのほうがごまかしがききやすいのだ。
それを言うと、先生は
「わかってくださいました?
そうなんですよ!
チェンバロって本当に繊細なんです!
やっぱりチェンバロを買ってよかったわぁ~」
と、私までが嬉しくなる晴れ晴れとした笑顔を見せてくださったのだった。