ブーニンの背中を押したルイサダ
きのう「スタニスラフ・ブーニン~天才ピアニスト 10年の空白を越えて」を視聴したときの記事を書いたが、そのなかでもうひとつ、フランス人ピアニスト、ジャン=マルク・ルイサダについて書けなかったので、その続き。
1985年のショパンコンクールでブーニンは優勝、ルイサダは5位だったので、いわば二人は若き日のライバル同士ということになる(ちなみに4位が小山実稚恵)。
番組の冒頭、ルイサダはブーニンのピアノに出会ったときの感想をこう語っている。
Comme un prince, comme un roi, je suis tombé amoureux, complètement.
(彼は)私にとってまるで王子、そして王のようだった。
私は完全に彼に惚れ込んでしまった。
そして番組の中盤、度重なる不運のため、活動を休止せざるをえなくなったブーニンの背中を押し、カムバックを促したのはルイサダだと紹介されるが、このふたりの再会場面が感動的!
ルイサダが
「My prince of piano, my youth, ma jeunesse!」
と叫んで、ブーニンを抱きしめ、チュッチュッしまくっているのだ。
確かにルイサダにとってブーニンは、若き日の青春のモニュメントと言えるのかもしれない。
失敗を乗り越えて大きくなったルイサダ
じつは私は以前からルイサダについて、非常に好感をもっていたのだ。
きっかけは1985年のショパンコンクールに関するNHKのドキュメンタリーをみてから。
下の動画でルイサダが紹介されているのは19:59~20:57あたりまで。
ナレーターによると
「陽気なフランス人ルイサダのまわりには、いつも賑やかな笑いがあります。
彼はどこでも人気者でした」。
映像では数名の女性(日本人?)に囲まれているルイサダがいる。
いるんだよねぇ。こういう男性。
すばらしくイケメンというのではないのに、話が面白いのか、なぜか女性が集まってくる男性って。
しかしこの明るいルイサダにも苦い思い出があったことが語られる。
1980年のショパンコンクールに初めて出場した折、緊張のあまり指が動かなくなってしまい、途中で控室にひきあげるなり、泣き出してしまったそうなのだ!
ああ、こんな苦い青春の思い出を克服し、年齢制限ギリギリの27歳になって出場したショパンコンクールでみごと雪辱を果たすなんて、この精神力の強さには驚かされる!
角野隼斗をベタ褒めするルイサダ
ところで現代の若い日本人のなかでは、ルイサダは先のショパンコンクールの前に角野隼斗を指導したことで知られているかと思う。
以下の記事のなかで角野隼斗を絶賛しているので、抜粋してみた。
(中略)角野隼斗は特別です。隼斗は自由さと開かれた心を持っています。そして常に進歩しようとしていて、しかもそれをただ練習に明け暮れるという方法ではなく、創意あふれた方法で実現しています。
(中略)隼斗にはクラシカルな感性がありますが、心は古びていないので、思い切った方法で効果的な音楽を生み出せるのです。もっとも優れた日本人ピアニストの一人だと思います。
天才も努力家もすばらしい
ブーニンは間違いなく天才と言われてきたが、ルイサダはどちらかと言えば努力で今までの地位を築き上げてきたように思う。
しかしここまでくれば天才も努力家も、ピアニストという険しい道のりを続けてこられたということですばらしい。
でも世の中には彼らよりも長いキャリア、年齢が上のピアニストもいる。
アルゲリッチ、マリア・ジョアン・ピレシュ、内田光子(あれ、みな女性だわ)。
これまでを振り返りのはこのあたりでやめて、これからにも期待しようと思う!