夢でささやくピアノ

クラシックピアノとジャズピアノの両立を目指す、ねむいゆめこの迷走記録

中井貴一の声で村上春樹「猫を棄てる」を聴いて見た

村上春樹「猫を棄てる 父親について語るとき」を朗読する中井貴一

最初のオーディブル (Audible)無料体験では不満だった

先日、ライン電話で首都圏に住む姉と会話したときのこと。

最近のお互いの読書環境について意見交換したあと、姉が「オーディブル (Audible) ってどうなんやろね?」と聞いた。

「待ってました」とばかりに私は、有料会員になることなく終わったアマゾンのオーディブル(オーディオブック)無料体験のときの「体験話」を披露した。

夏目漱石の『』を聴いて見たんやけどね。およねさんの声がアニメの声優みたいに明るいねん」

「およねさん」とは夫である主人公の宗助と、許されがたい過去を背負ったまま社会の片隅でひっそりと生きる明治の女性である。

そのひとから素っ頓狂な明るい声を出されたら、たまったものではない。

だってピアノだって、明るい音色で盛り上げて、デクレシェンドのあとは暗い音色で、とか言うではないか。

「あんなん全然あかんわ。およねさんには『若尾文子』ぐらいでないと!」

私が出した例が古すぎたのか、電話のむこうで苦笑する姉の声が聞こえた。

ともかくオーディブルでは、コンテンツの豊富さはともかく、ナレーターの力量が大きく左右するということで、60代後半の姉妹の意見が一致したのである。

中井貴一村上春樹オーディブル再挑戦

オーディブル無料体験は2年ほど前のことなのだが、それ以降もしつこく(?)アマゾンから「オーディブルの無料体験をしませんか?」のメールがきていた。

ほほう、無料体験って何回でもできるものなのか?

疑問に思いながらも、最近は図書館で本を借りるのも、借りたものを持って帰るのが負担で億劫になっていたため、もう一回オーディブルを試してみるか、という気になった。

試してみる前にどういうコンテンツがあるのか調べたところ、書店で立ち読みしたまま読みかけになっていた村上春樹の「猫を棄てる 父親について語るとき」があるのに気づいた。

そしてナレーターは俳優の中井貴一

え、あのベテラン俳優の? だったらこれはアタリかもしれない!

私は再度、オーディブルの無料会員に申し込み、1時間45分これを聴くことに集中した。

というのも私の悪いクセで、一度にあれもこれも、というのができないのだ。

テレビを見るときは、あらかじめ録画しておいたものをしっかり見る。

トイレに行くときには一旦停止にする。

今のようにブログを書いているときも、BGMは気が散るので流さない。

こういう性格ってあまりオーディブルの利用者には向いていない、と思うけどね!

中井貴一のナレーションに大満足

結果、中井貴一のナレーションは素晴らしかった。

猫を棄てる」も、村上春樹のお父さんの戦争体験も、中井氏の声ならピッタリはまっていた。

もちろん中井氏のことだから、「サラメシ」のときのように明るい声は出していない。

そして戦争体験を朗読するときでも、ことさら重々しい声を出しているわけではない。

けれども中井氏の朗読術のおかげで、リスナーは自然に村上春樹の世界に入っていけるのだ。

あ、そうだ! でも残念なことがひとつだけあった!

今回、私は初めて村上春樹のお母様と、作家の田辺聖子はともに、大阪の樟蔭女子専門学校卒ということを知った。

田辺聖子芥川賞を受賞した新聞記事を、村上春樹のお母様が読んだとき、

「あ、私、この子よう知ってるわ!」と言ったらしいが、このときの中井氏のナレーションが関西弁でなかったため、違和感を感じたのは残念だった。

でもそれぐらいなんだ。

全体から比べるとちっさなことである。

オーディブルの役目

しかしオーディブルというのは便利なのか何なのか?

例えば、村上春樹のおじい様が住職を勤めていた寺のことを、中井氏が「あんようじ」と発音した。

もちろんそれに誤りはないのだが、大いに興味をそそられた私にとって、「安陽寺」なのか「案用寺」なのか「庵要寺」なのかもわからない。

そのため「あんようじ」でグーグルさんのお世話になり、一から調べないといけない。

結局その寺は京都市左京区にある「安養寺」とわかるまで、私はかなりまわり道をしなければならなかった。

安養寺・大日山,Anyo-ji Temple "Kyotofukoh"

あと村上氏が調べ上げたお父様の軍歴もかなり詳しいもので、昭和史に関心のあるかたなら聞き捨てならず、年号、連隊の名前まで、いちいちメモをとりたくなるだろう。

こういう場合、オーディブルよりずっと書籍のほうがラクである。

とどのつまり、どうやら私は「猫を棄てる 父親について語るとき」の書籍を購入するであろう、という気がする。

オーディブルはきっかけを作ってくれたツールだったのだ!