夢でささやくピアノ

クラシックピアノとジャズピアノの両立を目指す、ねむいゆめこの迷走記録

村上春樹氏短編「クリーム」でピアノ連弾について考えた

「一人称単数」村上春樹 文藝春秋

村上春樹氏の短編「クリーム」とは

村上春樹氏の短編「クリーム」は、「一人称単数」というタイトルの短編集のなかに収められている。主人公の男性が、かつてピアノ教室でいっしょだった女の子からリサイタルの招待状を受け取った。出席するつもりで神戸の山の上を訪れたが会場がみつからず、代わりに見知らぬ老人から意味深なことばを投げつけられる・・・あれ、こんなシチュエーション、他にもなかったっけ?と思うのだが、これがいわゆる「村上ワールド」らしく、ファンからの人気も高いようだ。

村上春樹氏は少年時代にピアノを習っていた

この短編も他と同じく、ご本人の自伝的小説といわれているようだ。たしかに村上春樹氏は少年時代にピアノを習われていたらしい。私が持っている「村上さんのところ」のなかにこんな記述がある(以下引用)

・・・あとはピアノを習っていました。ソナチネくらいまでいったかなあ。あまり良い生徒ではなかったですが、先生が阪急今津線の小林というところに住んでいて、そこまで電車に乗って一人で通うのはわりに好きでした。今でもときどき気が向くと楽譜を開くことはあります。指はなかなか動きませんが。・・・

連弾のむずかしさを本当に経験したのだろうか

なにも小林まで行かなくても芦屋にもいいピアノの先生がいるでしょ、と突っ込みたくなるがそれはそれとして。

短編「クリーム」に出てくる村上少年とおぼしき少年は16歳のとき、同門の女の子と「モーツァルトの4手のためのソナタ」(下の動画はイメージです)を連弾したことがある。そのとき、少年よりもピアノの腕がたつ女の子は彼がミスをするとイヤな顔をし、ときには舌うちをすることもあった。肘がぶつかりそうになることもあった。それで少年はピアノも辞め時かなぁと思うのだ。

私は先生としか連弾をしたことがなく、肘がぶつかりそうになったことはないが、手がぶつかりそうになったことは何回もあった。けれども先生のお邪魔にならないよう、ずいぶん気を使ったつもりである。

もし子ども時代に、私より上手で気の強い子と連弾をしていたら、きっと私は萎縮してしまって弾けるものも弾けなくなってしまっただろう。ソナチネぐらいの腕前なら下に貼ったソナタはちょっと厳しそうで、村上春樹氏が本当にこんな経験をしたことがあるのかは疑問だけれど、いかにも「あるある」という気にさせられる。

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神戸の山頂近くにホールはないが豪邸サロンはある

短編「クリーム」では、リサイタルの会場が神戸の山の上で、阪急電車の**駅で降り、山頂近くのバス停留所で降りて少し歩いたところのホール、という設定になっているが、いかにも現実にありそうだ。

ありそうだけれど私の知っている限り、現在の神戸市では山頂近くの高級住宅街にホールはない(神戸市灘区にある「里夢」は駅から徒歩でいける)。けれどもみずからの豪邸をときどき私的なサロンコンサートとして使っているピアニストはいらっしゃる。

実は今回、ピアノの先生を新しく探すにあたって、そういうかたのホームページを見つけたのだ。そこにはショパンが演奏したといわれてもおかしくないようなシャンデリアと暖炉のある居間にグランドピアノが置いてあって、高級感がこの上なく、体験レッスンだけでも受けてみたい、と私の心は激しく揺れ動いた。でもレッスンは固定ではなく単発の予約制だったのであきらめたのだ。

そう、やっぱり「村上ワールド」には現実と非現実がごっちゃになった不思議な魅力がある。ましてやそこに音楽が聞こえてきそうとなると、ツッコミをいれつつ、ついつい読んでしまう。