平野啓一郎「ある男」にどはまりした一週間
いやぁ~この一週間、ひさびさにどっぷりはまってしまった。
無料体験のオーディブルを活用しようと思い、選んだのが、平野啓一郎の「ある男」。
私が平野啓一郎の小説を読む(聴く)のはこれが3冊目。
最初がショパンとドラクロワの交友を描いた「葬送」、続いて恋愛小説の「マチネの終わりに」。
どちらも良かったが、「ある男」ほど惹かれたことはなかった。
オーディブルの「ある男」は再生時間11時間4分。
家事のあいまにでも聴けばあっというまにすむのかもしれないが、悲しいかな、同時に2つのことができないタチなので、再生しているあいだはPCに張り付いて聴いている。
そしてとっても気に入ったところは停止して、メモをとったりしている:例えば、登場人物、みすずの3勝4敗論(人生においては、多くの成功を望まず3勝4敗ぐらいがちょうどいい、という考え方)には、「うまいこというなぁ~」と感心してしまった!
「ある男」で思い出した映画「ジャック・サマースビー」
「ある男」は映画化もされ、人気の若手俳優さんが出演しているようなので、すでにご存じのかたも多いか、と思う。
多分、知らぬは流行に疎い私だけなんだろうね。
映画のキャッチフレーズらしきものは
「愛したはずの夫は、まったくの別人であった」。
まったくこれに尽きる。
これが骨太のテーマであって、あと在日の問題、ヘイトスピーチ、戸籍の交換という犯罪、冷めた夫婦関係などがからみあうのだが。
そして聴いている途中で、「あれ、別人と入れ替わるハナシって映画でみたような?」という気がした。
調べてみると、1993年のアメリカ映画「ジャック・サマースビー」(原題:Summersby)だった。
主演はリチャード・ギア、そして相手役の妻にはジョディ・フォスターが扮している。
これは南北戦争で出征したまま行方不明になっていた男が数年たって帰還したが、妻のほうはどうやら自分の夫でないことに気づいていた?気づいていない?というストーリーで面白かった。
しかし観たのがずいぶん前なので、あやふやな記憶でしかない。
下は「ジャック・サマースビー」の予告編。
「ジャック・サマースビー」はフランス映画のリメイクだった
ところが「ジャック・サマースビー」は1982年のフランス映画「マルタン・ゲールの帰還」(原題:Le Retour de Martin Guerre)のリメイクだったことがわかったのだ!
そして映画「マルタン・ゲールの帰還」は実際にあったフランス史上最大の詐欺事件、1548年のマルタン・ゲール事件を下敷きにしているのだ!
なんかもう、芋づる式にいろいろ出てくる感じで面白いなぁ!
そこでどうしても映画「マルタン・ゲールの帰還」を観たくなった私は夫ちゃんにせがんでがんばってもらい、きょうめでたくウチでみることができたのである。
主演はフランスNo.1の名優、ジェラール・ドパルデュー。
50年前だから体型も普通で、顔もハンサムといっていいぐらいだ。
そして最初から夫でないと感づいていたが、優しい「夫」に騙されたふりをしていた妻役にナタリー・バイ。
あらまあ、なんと可憐なこと!
でも彼女は75歳になった今でもとっても美しいよ!
下は「マルタン・ゲールの帰還」の予告編。
「ある男」がこれまでの映画と違う点
それでは「ある男」はこの2つの映画の影響を受けているのか、というと何パーセントかはあるかもしれないが、全部ではない、と思う。
なぜなら映画では、行方知れずとなった夫に代わって別の男が、「ほら、ワシがあんたの旦那やで~」と妻や親族をいいくるめる。
しかし「ある男」では最初から別人になりすました男が、死ぬまで身元を偽り、別人の人生を生きて妻や子どもに愛されるのだ。
うーん、騙された妻の心境やいかに?
そして男はなんのために身元を偽っていたのか?
これこそ、考えれば考えるほどわからなくなるミステリーではないか!