ハネケの「ピアニスト」はオーストリア映画?
もし、ミヒャエル・ハネケという監督さんの映画が好きだというひとに出会ったら、私は「へぇ~この人はとても芸術的な感性の持ち主なんだなぁ」と思うだろう。
ハネケが監督し、2001年のカンヌ映画祭で3つの賞を得て、名作の誉高い「ピアニスト」はいくらピアノが題材とはいえ、あらすじを読んだだけで、その難解さと「異常な」世界観から「もう結構です」という気分だったので、今まで見る気になれなかったのだ。
ところが夫ちゃんの映画コレクションのなかにこれがあるというので、一緒にみることになった。
しかし元パリジャンの夫ちゃんに言わせると、これはフランス映画ではなく、オーストリアというかドイツ系映画だというのだ。
根拠は主演の2人だけがフランスの有名俳優で、舞台はウィーン。
監督はオーストリア人で、原作もオーストリア人のエルフリーデ・イェリネク(2004年のノーベル文学賞受賞者)。
だからこの映画を楽しめなかった人には、「この映画をもし退屈だと思っても、フランス映画じゃないからね!」と申し上げたい。
「ピアニスト」のあらすじと予告編
この映画のあらすじについて、Wikiを引用させていただくと以下の通りなのだが・・・
性的に抑圧されて育ったために屈折した性の欲望を肥大化させてしまったピアノ教師の中年女性と年下の美青年の間で繰り広げられるすれ違いの恋をめぐるドラマを生々しく赤裸々なタッチで描いている
いわくありげな主人公のふたり
ここでちょっと一言ありなのだが、イザベル・ユペールが演じるのは「ピアノ教師」というよりも、名門音楽院の「ピアノ教授」で、彼女を畏怖する生徒たちからはprofesseureと呼ばれている。
また夫ちゃんによると、39歳にもなってなぜ彼女が母親と同居しているのか、何の説明もない、と訝しんでいた。
日本ではいいトシをした女性と、その母親との同居は普通かもしれないが、ヨーロッパではちょっとあり得ないという。
私は「お母さん、病気か障害でもあるんじゃない?」と言っておいたが、その確証は得られなかった。
またブノワ・マジメル演じる美青年だが、このひとも私の感覚からすれば、「ピアノ教授」に負けず劣らずヘンだ。
私なら女子トイレまで追っかけてきて、トイレのドアを乗り越えようとする男なんか絶対にゴメンである。
主演の2人のピアノとの取り組み方
それでもイザベル・ユペールとブノワ・マジメルはさすがの演技である。
変態っぽいところは別として、あくまでピアノ演奏の場面だが。
フランス語版Wikiによると、ブノワ・マジメルはピアノを弾いたこともなく、楽譜も読めなかったが、映画のために4ヶ月にわたって練習。
一方、イザベル・ユペールは12年にわたってピアノを習っており、映画のなかでも実際に弾いているということ。
どうりで弾いている姿勢が、ちょっと力がはいっているもののホンモノっぽいと思った(しかしYouTubeでの動画はみつからなかった)。
下の動画はシューベルトのソナタD959 第3楽章を弾いている(フリをしている?)ブノワ・マジメル。
なかなかいいフォームではないだろうか?
「ピアニスト」をみたあとで
ネットの記事をざっとみたところ、この「ピアニスト」という映画はとても評価が高いと思う。
しかしどう考えても私の好むタイプの映画ではない。
この映画がカンヌ映画祭で上映されたとき、観た人の3分の1は不快感から席を立ってしまったという。
ひょっとしたら私もその立場であれば、その席を立ってしまった人のなかのひとりかもしれない。
しかし不思議に、これは私ができれば眼を背けたい、臭いものには蓋をしたい、本当の世界を描いているのかなぁという気もして、やたらハッピーな映画とか、お涙頂戴の映画よりもましかもしれないと思ったりする。
機会があればハネケの別の作品も見てみようっと。