私の村上春樹短編ベスト3
村上春樹の短編、「ハナレイ・ベイ」は「東京奇譚集」のなかに収められている。
そして氏の短編のなかで言うと、私の3番目に好きな短編である。
参考のために、私の村上春樹短編ベスト3は
- バースディーガール
- イエスタディ
- ハナレイ・ベイ
あれ、カタカナばっかりだ。でもこれは別に意味があるわけではない。
私が「ハナレイ・ベイ」に興味がある理由
そしてどうしてハナレイ・ベイに興味があるかというと、
- 主人公のサチが、レッド・ガーラントでもビル・エヴァンスでもウィントン・ケリーでも、とにかく何でもコピーできてしまうジャズピアニストであること。
- 一人息子がいたが、息子のことは人間的にはあまり好きにはなれなかった➡これって珍しくないか?息子を溺愛する母親の話はゴマンと聞くけど。
逆に言えば、ハナレイ・ベイにでてくる別の要素、つまりハワイの自然とか、温かいハワイの人々とか、サーファーとか、そういうものに私はまったく興味がなかったのだ。
それが、この短編の映画化が、私にとって面白くなかった原因なのかもしれない。
映画のなかのピアノ演奏曲と場面について
この映画の主人公サチは吉田羊さんが演じている。
そんなに見ているわけではないけれど、彼女が出ている映画やTVドラマでは、いつも存在感というかオーラに包まれた俳優さんだったと思う。
でもこの映画のなかではなぜかオーラは感じなかった。
吉田羊さんは、この映画のために英語とピアノを連日特訓したのに、彼女のピアノ演奏はまったく使われなかった、とどこかで読んだ。
あれ、まあご苦労様。それじゃ、映画ではプロのジャズピアニストが弾いたのだろう、と思われたのだが、実際に聴いてビックリした。
弾いた人はプロのピアニストなのかもしれない。
でも明らかに、ピアノバーで演奏されるようなスタイルではなく、NHKの合唱コンクールのピアノ伴奏みたいなのだった。
それも曲目は「Plaisir d'amour(愛の喜び)」。なんでこの曲なん?
もう1曲は「アイ・ガット・リズム(I got rhyhum)」で、これはまあまあ、ピアノがある場所のレストランの雰囲気にはあっている。
でも2曲とも、ふだんはふてぶてしい態度とぞんざいな言葉遣いのサチ(吉田羊)が、ピアノの前ではお行儀よく、ちんまりと弾いているのは、私にはとても違和感があった。
ジャズピアニストならカラダごとスィングしてほしいなぁ。
せめて足でリズムをとってほしかったなぁ。
この映画のポイントは主人公のピアノではない
でもこの映画のポイントはサチのピアノではないことは、この私にだってよくわかっている。
ポイントは、人間的には好きになれなかった、自堕落でいいかげんでわがまま、そして最後にはサメに片足を食べられて死んでしまった一人息子のことを、母親のサチは本当は愛していた、ということに気づくということだよね。
その気づきのために、サチはハナレイ・ベイの浜辺を必死の形相でさまよい歩き、巨大な樹にカラダごとぶつかり、部屋中に衣類を放り投げたりする。
大変なんだ。小説では枕に顔をうずめ、声を押し殺して泣くだけなんだけどね。
映画のラストシーンは小説と同じ
でも映画のラストシーンは、比較的小説に忠実である。
それはサチが、若いサーファーに女の子とうまくやる方法を伝授する場面である。
いわく
- 相手の話を黙って聞いてやること
- 着ている洋服をほめること
- できるだけおいしいものを食べさせること
きっとこの映画の製作者は、村上春樹のこの言葉に「なるほど!」と合点したのに違いない。