ご近所さんから牛肉をいただく
ウチの近所に、その分野では世界的に有名な企業のオーナー氏の邸宅がある。
が、私たちはオーナー氏のお顔さえ拝んだことはない。
かの邸宅では、ガレージが邸宅の1階に組み込まれているため、オーナー氏は近隣の住民と顔をあわさずにご出勤されるからである。
私たちが挨拶するのは、この邸宅に住み込んでいる「執事」氏で、先日彼が庭の水撒きをしているところに偶然出会った。
私たちとしばらく立ち話をしたあと、執事氏は
「ちょっと待って。ええもんあげるわ」
と行った後、邸宅に引っ込み、ほどなくして牛肉のパッケージを手に現れ、
「はい、これ。ウチは年間50個はこういうのもらうから、いっぱいあるねん。お返しはいらんから」
と言うのだ。
私がすき焼き奉行に就任する
家へ帰ってから開けてみると、それは見事な霜降り肉の1kg詰め合わせだった。
え~~!! こんなん貰っちゃっていいのか?
いくら「お返しはいらない」と言われても、タダより怖いものはない、というのに!
しかし夫ちゃんは素直に喜んでいる。
そして
「こんな脂の多い肉は西洋料理にはあわない。
そうだ!これはすき焼きにしよう!」
というのだ。
それはいいが、すき焼きには関東風と関西風がある。
すなわち、関東風は前もって調味料の役目を果たす「わりした」を作るのだが、関西風ではそのときどきで、砂糖で肉を炒めた後、醤油、酒を足すという段取りである。
そして私の知る限り、そういうのを取り仕切るのはいつも男性と決まっていた。
過去にはウチの父であったり親戚のおじさんだったのだ。
しかし彼らはもうこの世にいないし、人生ですき焼きをたべたのが2回くらいという夫ちゃんには任せられない。
しゃーない! 私がすき焼き奉行になるのか!
男はつらいよ寅次郎夕焼け小焼け
すき焼き奉行をしながら、観た録画映画は「男はつらいよ寅次郎夕焼け小焼け」。
この映画は寅さんシリーズの17作目にあたるらしい。
私は渥美清さんが亡くなってからこのシリーズの面白さに開眼し、ほぼ3分の2は観たと思うのだが、これはまだ見ていなかった。
マドンナ役は太一喜和子さんである。
私は彼女の生前、その魅力がさっぱりわからなかったのだが、今回この映画をみて「芸者 ぼたん」にふさわしく、大輪の牡丹のように妖艶だと思った。
さすが三國廉太郎さんでなくても、その魅力にずぶずぶはまるわけである。
出演者の多くはみな故人となってしまった
それからこの映画では、宇野重吉さんとご子息にあたる寺尾聡さんが共演しているのもみどころだ。
映画では宇野重吉さんはずいぶんおじいさんにみえるが、調べてみると、この映画が撮られた1976年にはまだ62歳。
そんなにおトシではないのだ。
そして息子さんの寺尾さんは今や、その年齢をはるかに超えた76歳。
去年の紅白に出られたらしいが(私は見逃した)、髪はもう真っ白である(にもかかわらずカッコいいと評判だが)。
その他、ソ連に亡命経験がある岡田嘉子さん、元ジャズピアニストの桜井センリさんも登場しているが、みなもう故人となってしまったのが感慨深い。
渥美清さんに至っては言わずもがな。
せめてさくらさん役の倍賞千恵子さん、夫役の前田吟さん、なにより山田洋次監督(92歳)にはもっと長生きをしてほしいものだ。