観る人を選ぶ映画「Perfect Days」
役所広司さんがカンヌ映画祭で主演男優賞を受賞した映画「Perfect Days」を観たのは、フランスに住むウチの夫ちゃんの弟のおすすめがあったからである。
さて海外での評価が高く、小津安二郎監督の影響をもろに受けたようなドイツ人監督によるこの作品を、私たちは楽しめたのか?
結論から先に言うと、アクション映画が何より好きな夫ちゃんには向いていなかった。
「こんな映画、どこがいいのか」
なるほど、兄弟でも趣味は違うものね。
私はというと、「小さなことに幸せを見出す」というこの映画のキャッチフレーズには共感するものの、よく説明できない違和感のためちょっと居心地が悪かった。
もしも挿入歌が演歌だったら?
この映画の挿入歌は全部で10曲あるらしいが、日本語の曲は1曲だけ。
あとは60-70年代のロックなのだ。
これらは主人公平山の愛聴盤らしいから、別に文句を言うわけではないが、しかしBGMとして流されると、もはや舞台は東京でなくてTOKYOに見えてくる。
別に平山が清掃するトイレが超近代的だからではない。
彼が住むみすぼらしい木造アパートも、浅草橋付近の一杯飲み屋も、夕陽が落ちる隅田川もおしゃれな光景に見えてくるから不思議だ。
それにいきつけのスナックのママとして、歌手の石川さゆりさんが、「朝日のあたる家」を歌う場面がある。
もしこれが「津軽海峡冬景色」だったらどうなるだろう?
いや、私としては「ウィスキーが、お好きでしょ」を聞きたかったが。
そして他のロックの曲の代わりに「昭和枯れすすき」とか北島三郎さんの「与作」が使われたらどうだろう?
平山の生活は与作のように勤勉、かつ清貧なんだけれど。
日本人からはダサいと嫌われ、海外では英語でないからウケないだろう。
日本でも海外からも評価される日本発の音楽ってないのだろうか?
平山の過去と出自が知りたかった
トイレ清掃という体力仕事を完璧にやってのけ、毎夜の読書、空や樹を眺め、育てている植物を愛情を込めて世話をする平山。
無口ではあるが、人間嫌いではない。
生活圏内で出会う人々との縁をおろそかにしないことからもそれは感じ取れる。
しかしこの平山という男、大変なインテリなのだ。
部屋中は文庫本とカセットテープで埋め尽くされている。
インテリの象徴としてテレビはない。
出自もかなり裕福な家庭の出身で、妹のことばから、父親と何かしらの確執があったため、家族との縁を切ったと想像できる。
私はこの平山という男の過去というか、正体をみきわめたかったため、最後まで見ていたようなものだ。
しかしそれは最後までわからなかったし、あえて描かれなかったように思う。
彼が現在のような仙人になるまで、何があったのか?
年代的にいうと、元全共闘?プロレタリア革命支持者?
妄想は膨らむのだが、監督からは「そんなことは問題ではない」と言われそうである。
エンディングはニーナ・シモンの「Feeling Good」
60-70年代のロックが使われすぎなことについて文句をいったようだが、別にそれがキライということではないんだよ。
特にエンディングで使われたニーナ・シモンの「Feeling Good」は好きだし、平山の表情を追ったカメラワークは印象的だと思っている。
あと、スナックのママの元夫ででていた三浦友和さんの演技が秀逸。
こういってはなんだが、いつのまにあんなに渋い役者さんになったのか?
やはり長く続けていると成長するものだなぁと実感した。