各駅停車のごとき私のパルティータ2番カプリッチョ
パルティータ2番カプリッチョを弾くにあたって、私がずっと気にかけていたのはテンポだ。
どのピアニストのを聞いても、あるいは中高生の演奏動画を見ても、私のようにちんたら各駅停車のごとく弾いているのはない。
かろうじて、小学校6年生の女の子が3年前に弾いているのとテンポがほぼ同じだった。
でも彼女のは、どの音の粒も揃っていて、しっかりしている。
「いいなぁ、今ごろはたぶん高校生ぐらいになっているだろうから、将来はすばらしいピアニストになるのかなぁ」
と羨望してもしようがないのだけれど。
イェルク・デームスのバッハは先生のお気に入り
しかし私の先生にはテンポにはそれほどこだわるかたではないようで、
「イェルク・デームスってピアニスト知ってます?
オーストリアのひとなんですけど」
と言った。
あとで調べたところ、あまりに有名なかたなのでびっくりしたのだが、私はそのとき本当に名前も聞いたことがなかったので、
「いいえ、知りません」
と言った。
すると先生はスマホをとりだして(スピーカーに接続しているのかすごくいい音だった)聞かせてくれた。
「私はこのひとのバッハがすごく好きなんです」
それが↓の動画の録音である。
ふーん、こんなバッハもあるんだね。
疾風怒涛の速さで弾かれている他のピアニストとはまた、一味も二味も違う味である。
なんといったらいいのかなぁ。
そう、どのフレーズもフレーズごとに違う表情をしているというのか。
それより先生は、
「これだとねむいさんが弾いたテンポより、すこぅし速いだけでしょ?」
先生、すこぅしはちょっと言い過ぎかも。
でも絶対にまねできない速さとは言えないかも。
強弱のほとんどが井口版とは逆のデームス
家に帰ってから、ブックマークしていた實川風さんのバッハをイェルク・デームスさんと取り換えた。
そして楽譜とにらめっこしながら再度聴いて見たのだが、なんと私が持っている井口版(春秋社)のと、まるで計ったように強弱の付き方が逆なのだ。
たとえば22小節目では井口版はp、デームスさんはf。
そして28小節目。
私がいつも井口版にのっとって、元気よくレッソーと弾いているところは、P。
そして前半の終了47-48小節目は楽譜にないリタルダンド。
後半の始まり、49小節目では井口版はfになっているのに対し、デームスさんのは、か弱げなP。
ほかにもいろいろあるが、要するにほとんどが井口版と逆であって、同じところのほうが少ないぐらいなのだ。
私はどう弾けばいいのだろう
これはどうしたらいいのだろう。
井口版、すなわち編集された井口基成氏は日本のピアノ界で「鍵盤の天皇」と呼ばれたかたなんだよね。
このかたの弟子、そのまた弟子とかいれたら、井口一門はものすごい数になるわけで、現代日本のピアニストたるひとはほとんどみんな井口氏の影響を受けている、と言っても過言ではないくらいの影響力をもったかたでしょう?
だから審査員のかたがたはみな、井口版を聖書のようにそらんじているのではないだろうか、というのが私のあくまで想像なんだけど。
そう思うと「長いものには巻かれろ」式に、デームスさんのバッハでお手本にするのはテンポだけにしておいて、強弱のつけかたまで真似することはないか、と思うのだけど、どうもすっきりしないなぁ。
私はいったいどう弾けばいいのだろう?