ソバージュというややこしきフランス語
私が最初に「ソバージュ」ということばを知ったのは20代の頃で、そのころ、チリチリをゆるめにしたようなパーマが「ソバージュ」という名称で流行したからである。
その後「ソバージュ」とはフランス語が語源で sauvage と書き、形容詞での第一の意味は「野蛮な」、そして名詞では「野蛮人」ということを知った。
でもまさかこの年になって、フランスバロックの先駆者、ラモーの「レ・ソバージュ」(Les Sauvages = 未開人または野蛮人)に心奪われるとは思ってもみなかった。
それにしてもちょっと物議を醸しそうな和訳だなぁ。
ひょっとして sauvage にはもっとほかに意味があるんじゃないだろうか、とフランス語ネイティブである夫ちゃんに聞いてみた。
「フランス人にとってはヨーロッパ人以外はみな sauvages なんだ」
と彼は言う。
「アメリカ人もアフリカ人も sauvages、アジア人ももちろん sauvages、だから日本人も sauvages だよ」
確かにお年を召したフランス人のなかには、アタマのなかは中華思想でできているのかと思われるひとはいた。
しかし時代は変わり、フランスの国際的な地位の低下(日本も!?)ということもあって、若い人たちはそうでもないと思う。
ラモーには人種偏見はなかったと思う
それでは「レ・ソバージュ」という題名をつけたラモーはインディアン、つまりネイティブ・アメリカンを、文明が及ばない未開の地に棲息する人種、と彼らを蔑視したひとだったのだろうか?
私は違うと思うし、少なくとも違うと思いたい。
だって「レ・ソバージュ」は彼のオペラ=バレ「優雅なインドの国々」にも使われいて、酋長の娘と部族の若者のデュエット、そして部族の合唱が感動的だ。
そしてチェンバロの「エジプトの女」も、そこはかとなくエキゾチックで魅惑的だ。
ただ彼は異国への憧れから美しい曲を書いたのだと思うのだけれど。
絶対そうだよね!
古楽器オーケストラによる圧巻の「未開人」
きょうご紹介するラモーの「未開人」はフランスの古楽器オーケストラおよび合唱団Les Arts Florissants (レ・ザール・フロリッサン)によるもの。
指揮はフランスバロックの第一人者でチェンバロ奏者でもある、ウィリアム・リンカーン・クリスティ氏。
最初はネイティヴ・アメリカンに扮した女性の太鼓から。
彼女の所作が面白くて楽団全員が笑顔なのがいい。
0:41 おなじみのメロディーが流れる
2:32 酋長の娘ジーマと、彼女と結婚する若者、アダリオのデュエットで踊りながら!
3:00 胸が熱くなるような迫力ある合唱!
「異邦人」か原題の「レ・ソバージュ」にしてほしい
しかし日本語にもガイジンということばがあって、私たちはなにげなく非日本人を指して使うことがあるが、これが差別的だと感じる外国人のかたもいると聞く。
私たちにとっては外の人だから外人➡ガイジンと呼んでいただけなんだけど。
ことばってむずかしいなぁ。
sauvages をどうしても訳さないといけないとすれば、いっそのこと、「異邦人」はどうだろう?
いや、それだとカミユの小説「異邦人」か、かつてヒットした久保田早紀さんの
「ちょっと~ 振り向いてみただけの いほうじん~」
になってしまうからダメなのかなぁ。
それにしても「未開人」も「野蛮人」もすばらしい曲に似つかわしくないようで、気に入らない。
新しく楽譜を出版してくれる会社が「レ・ソバージュ」としてくれるといいんだけど。