山下洋輔さんのエッセーの面白さに圧倒された
先日、記事を書いているうちに、山下洋輔さんのことを思い出した。
そしてその記事を書き始めたときは、まったく山下さんに言及するつもりはなかったのに、最後の段落では山下さんと井上陽水さんとの対談・演奏が収録されている動画で終わってしまった。
kuromitsu-kinakochan.hatenablog.com
それを書くことが楽しかったので、また山下洋輔さんについて書きたくなった。
まず山下洋輔さんと言えば
- 肘打ちやゲンコで有名なフリージャズのピアニスト
- タモリさんの発掘者
- 軽妙なエッセイを執筆するエッセイスト
の順で著名であるかと思う。
しかし私が山下さんを知ったのは3➡1➡2の順で、なんといってもエッセイの「ピアニストを笑え!」の面白さに、当時20歳の私は圧倒されたのだった。
あんまり面白かったので、私はこの本とロマン・ロランの「ジャン・クリストフ」と一緒に、当時入院していた母の病室へ、母の気晴らしになるかと思い持って行った。
ところでロマン・ロランの「ジャン・クリストフ」と山下洋輔さんの「ピアニストを笑え!」に何か共通点はあるのか?
まったくないと思う。
ただ両方とも当時の私の愛読書だっただけである。
「ジャン・クリストフ」はなぜ読まれなくなったか
ロマン・ロランの「ジャン・クリストフ」はベートーヴェンをモデルにしたフランス人小説家、ロマン・ロランの代表作である。
彼はこの小説で1915年のノーベル文学賞を受賞したと言われているが、この現代で「ジャン・クリストフ」を読む人はいるのか?
いたとしたらかなり変わっている方、といっていいかもしれない。
上の記事の筆者はジャン・クリストフのモデルがベートーヴェンだったという説にかなり否定的であるが、それでもやはりこの小説の、特に前半は、ベートーヴェンの伝記に酷似しているように思う。
それになんといっても40-45年前、ベートーヴェンは、クラシック音楽愛好家以外にも、もっと知られていたし、聴かれていたし、難聴にもかかわらず名曲を書き続けたということで、ショパンとは比べ物にならないほど、尊敬されていたと思う。
そのベートーヴェン人気が徐々にではあるが下降線をたどるようになったから、小説もあまり読まれなくなったのではないだろうか、と私は推測している。
母が反発したロマン・ロランの名言
病床の母に持って行った「ピアニストを笑え!」は当然、母から却下された。
「まとまりが悪い」
というのである。
反して「ジャン・クリストフ」には多大な感銘を受けたようである。
しかしこの小説のなかには、
人は幸せになるために生まれてきたのではない。
与えられた運命を成就するために生まれてきたのだ。
と言う一節があり、母は激しくこれに反発していた。
「お母さんは、これは違うと思う。
この時代やったらそうやったかも知れんけど、今はもうそんな時代やない。
あんたは幸せになるように努力しなさい。」
と言った。
私はふーん、そしたらどうしたらええんかね、と思ったが黙っていた。
当時の私は、幸せになるためには、一生続けられる天職を見つけなければならない、と思っていた。
しかしどうやったらそれが見つかるのか、皆目見当がつかなかったのだ・・・
山下洋輔さんの天からの逆襲
母にはまったくウケなかった山下洋輔さんのエッセイであるが、思わぬところで、母も気がつかないうちに、天からの逆襲を受けることになる。
なぜなら母は入院の5年後、漢字は違うがヨウスケと名付けられた孫を授かり(私の甥)溺愛することになるからである。
そして今。
私はフリージャズにさほど惹かれるほうではないのだが、それでも下記の動画で山下洋輔さんが母校の小学校で、ラヴェルの「ボレロ」をフリージャズ的に弾いているのをみると、
「やっぱりすごい!!」
と感嘆せざるを得ないのだ。