個人的には、クラシックもジャズも好き、という人に出会ったことがない。
私の交友関係はとても狭いので、それをもとに仮説が成り立つ、とはまったく思わない。
が、感想として「両方のジャンルが好きな人はとても少ないだろう」と思えるのだ。
これはいったいどうしたことだろう? 世の中には、洋食と和食の両方が好き、という人も多いだろう。映画にしたって、「邦画は観ますが、洋画は好きじゃないんで」という人もあまり聞いたことがない。
なのに音楽に関しては、クラシックが好きな人はジャズに興味がなく、ジャズが好きな人はクラシックを敬遠していて、そのどちらもほとんど聴かない、という人はゴマンといる気がする。
そこで、私が知っている人をひきあいにだしても分母が少なすぎるので、私は知っているけど向こうは知らない、といった「有名人」について考えてみた。いた、いた、クラシックもジャズも好きな人が!!
村上春樹さんである。
村上春樹さんは、作家デビューを果たす前には、東京でジャズバーを経営していた。なので、ジャズは専門家といえるだろうが、クラシックについては失礼ながらそれほどの域に達しているとは思えなかった。
だから、「小澤征爾さんと、音楽について話をする」を最初に手に取ったとき、「世界のオザワと対談するなんて、ええ根性してはるなぁ」と思ったのである。
ところが、読んでみて村上春樹さんのクラシック音楽に対する知識と眼力についてすっかり敬服してしまった。小澤征爾さんをして「村上さんと話していると、忘れていた昔のことを思い出した」と言わしめるほどだから、対談でマエストロを前に位負けするどころか、堂々とわたりあったことがわかる。
「さすが、神戸高校のひとは違う」
読後、私はタメ息をついた。
村上春樹さんは阪神間の公立高校では学力トップの神戸高校出身である。これは氏が高校生だったころも、現在でも変わっていない、と思う。
ああ、あの頃もっと勉強していれば、今頃は「村上春樹さんの後輩なんです」とドヤ顔で言えただろうに。
考えることはいつもこれ、である。