バロック曲集のなかからリュリの作品を弾いてみた
初見演奏対策に春秋社発行の「バロック曲集」を使ってみることを思いついたので、それを先日、記事にした。
kuromitsu-kinakochan.hatenablog.com
クープランやラモーはちょっと初見で弾くには難しそうだったので、手始めに最初のリュリからはじめたのだが、これは正解だった。
譜読みは難しくないものの、曲は美しく、「へぇー、リュリってこんなにいい曲を書く人だったんだなぁ」と改めて知った。
そこで模範演奏も聴きたくなり、YouTube内を探し回ったが、どうしたわけかプロのピアニストが演奏したものはめっぽう少ない。
反してアマチュアピアニストのはまあまあある。
きっと春秋社の楽譜を参考にされているのだろう。
リュリ(?)の「やさしいうた」の動画
下記の動画を投稿されているかたは多分プロだと思われる。
そして題名は「Lully Air Tendre」となっており、内容は春秋社「バロック曲集」リュリ作の「やさしいうた」と一致する。
ところがこの動画にいわば物言いのコメントがついている。
「これリュリとちゃいまっせ!これを作曲したのはフランドルの音楽家で、ジャン=バティスト・ルイエ・ド・ロンドルというひとでっせ~」
というものである。
リュリ(?)の「クーラント」の動画
そしてもう一つ、日本人のアマチュアのかたで、おなじくリュリの「クラント」を上手に弾いていらっしゃる方がいるのだが、そのかたへのコメントにも、
「これはリュリではない! 本当の作曲者は J.B.ルイエ・ド・ロンドルだ!」
というのがある。
そしてこの「クラント(クーラント)」を見事に弾いているプロピアニストに、シプリアン・カツァリスがいる。
タイトルは「クーラント ホ単調」で作曲者は Loeillet of London となっている。
だから先ほどのルイエ・ド・ロンドルということなのか?
ここまでくると2対1で、春秋社「バロック曲集」のリュリ作というのが、だんだん眉唾ものに思えてくる。
私の推測では、リュリもルイエ・ド・ロンドルも、どちらもジャン=バティストがつくから編者の井口先生が混同されたのでは?と思うのだが、井口先生のあまたある優秀なお弟子さんから叱責を受けそうなので、この説は取り下げておく。
しかし、太陽王ルイ14世に仕えたにしては、現在ではあまり作品が知られていないリュリのことが、なんだかお気の毒に思えてくる。
悲劇的なリュリの最後
作品については諸説あるものの、リュリの死因についてはどのひとの言うことも一致する。
なんとまぁ、リュリはルイ14世の病からの回復を願った自作を指揮しているとき、いきおい余って指揮杖(当時は棒でなく杖を使っていた)で、自らの足を突き刺してしまい、それがもとで壊疽を起こし、落命したのである。
下は映画「王は踊る」(Le Rois danse)の1場面で、リュリがおもいきりぶちゅっと指揮杖を足に刺してしまうところである。
この頃、リュリはすでにルイ14世の寵愛を失いかけており、演奏会に用意された王の席は空席のままである。
そしてリュリ自身も、もはや王が来ることはない、ということを知っていて、ひたすら指揮に努めるのだが、この悲劇・・・
苦痛に悶絶しそうになりながらも、リュリははじめてであったころのルイ14世の可愛らしい笑顔を思い出し、思わず微笑みをもらす。
ここからリュリとルイ14世の、愛憎入り混じった関係を視聴者は知ることになるのだが、それにしてもこんないい映画、どうして中古のDVDを買うしかみる方法はないのだろうか?