草刈正雄と高校教師の思い出
私が高校1年のとき、どういういきさつでそうなったのか覚えていないが、古典の授業中、教師が私を指名し、
「ねむいはどういうタレントが好きなんか?」
と聞いた。
指されたので立ち上がり、私はとっさに、
「草刈正雄です」と答えた。
すると教師は、
「草刈正雄?? あんなんがええんか?」と驚いたように言った。
つまり、あんなにチャラい軽薄な男がいいのか、に似た意味が言外に隠されていたように思われたのだ。
実は、高校1年の私は草刈正雄の大ファンというわけでもなかったのだが、一番売れているタレントなので、誰からも文句はでないだろうと、とっさに計算したのである。
ところが教師は私の返答が気に入らなかったようだった。
多かれ少なかれ、草刈正雄なる人物は六本木や渋谷の夜を遊び歩いた末、芸能事務所にスカウトされ、アイドルとして売れているだけの軽薄な少年だと、高校教師は想像していたのだろう。
それは私とて同じである。
でもそれのどこが悪いのん?カッコええし!
要は、インターネットもないあの時代、草刈正雄がどんな出自を背負い、たたき上げの少年時代を送ったかなんて、教師も私も知らなかったのである。
少なくとも私だって、8月14日放映のNHK「ファミリーヒストリー」を見るまでは!
草刈さんのアメリカのルーツ探しはNHKの総力戦
1952年生まれの草刈さんはお父さんの顔を知らない。
お母さんからは、父はアメリカ軍人で朝鮮戦争で戦死した、と聞かされて育ったという。
ところが実際は草刈さんのお父さんは朝鮮戦争後も生き延び、亡くなったのは10年前。
ノースカロライナの彼の出身地には、今も親族が住んでいることがわかった、というのが番組のはじまり。
草刈さんのお母さんはすでにこの世に亡く、草刈さん自身もお母さんから聞いているのは、ロバート・トーラ(トーラー?)というカタカナの名前だけ。
この情報だけでアメリカに住む草刈さんの親戚をたどる、という困難な作業はNHKの総力戦だったようだが、最後はDNA鑑定までする、という熱の入れよう。
でもそこまでするのははぜなんだろう?
番組の成功のため?
草刈正雄が有名人だから?
なんかちょっと腑に落ちず、すっきりしない気もするが、この番組で感激したので深追いしないでおこう。
草刈さんのお母さんはサムライに違いない
家計を助けるために、定時制高校に通いながら、さまざまなアルバイトで母を支え、ついにはモデル、歌手、俳優として揺るぎない地位を築き、親孝行をした草刈さんはすごい。
また70年ものあいだ、弟には日本に残した母子がいることを家族に明かせなかったアメリカの叔母さんもさぞ、辛いものがあったに違いない。
しかし何といっても私が圧倒されたのは草刈さんのお母さん、スエ子さんの生き様である。
なぜ草刈さんが生まれる前にロバートがアメリカに帰国したかについては、番組では詳しく語られていない。
ロバートの帰国後、スエ子さんはアメリカにいると信じたロバートに手紙を書くが、返事はロバートさんのお姉さんからで、「弟のことは諦めてくれ」的な返事だったらしい。
その文面でスエ子さんはすべてを察し、
- ひとりで息子を産み、育て
- ロバートの写真は全部焼き
- 息子には「父は朝鮮戦争で死んだ」と噓をつき、その嘘を墓場まで持って行ったのである。
サムライのような女性をあらわすことばはないのか?
この潔さはなんだ? まさしくサムライではないか?
それなのに、なんでサムライの女性形はないのか?
例えばサムラエ(samuraé?)とかサムライエーズ(samuraiaise?)とか?
しかし草刈さんとお父さんって似てるなぁ。
世の中にはあまり外見が似ていない親子もいるというのに、草刈さんの場合は幸か不幸か、お父さんに似すぎである。
スエ子さん、これじゃロバートの写真は必要なかっただろうな、と思わざるをえない。