芸術的な犯罪映画「サムライ」
多分パリオリンピックの影響なのだろうね。
NHK BSでも、立て続けにフランス映画が放映されているので、これまで気にはなっていたが、なぜか見る機会を逸した映画を観ることができたからだ。
「サムライ」もその一つ。
この映画はアラン・ドロンのカッコよさばかりが強調され、あげくに原題の「Le Samouraï」が日本語の侍からきているものの、「監督はホントに侍の意味わかってるのかなぁ?」とツッコミを入れたくなったりで、どうせB級映画に違いない、と決め込んでいたせいでもある。
ところが、実際にみて違った。
これは芸術映画といっても通るのではないか?
せりふの数が少なく、カメラワークで観客の注意をそらさない演出、退廃的な映像美、それによくあったいかにも60年代っぽいサウンド。
ジャンルとしては犯罪映画にあたるのだろうが、フィルム・ノワールという呼び方がぴったりの秀作だと思う。
「サムライ」のあらすじと英語字幕付き予告編
ジェフ(アラン・ドロン)は腕の立つプロの殺し屋。愛人(ナタリー・ドロン)に頼んで完璧なアリバイを仕組んだあと、依頼されたジャズバーの支配人殺しをやってのけたが、去り際にジャズバーのピアニスト、ヴァレリに顔をみられてしまう。
警察の一斉検挙で一時的に身柄を拘束されたジェフは関係者一同から面通しを受けることになった。しかし、たしかにジェフと視線を合わせたヴァレリは、彼を見たことがない、と証言する。あえて偽証を通す彼女の真意は?
ドキドキのメトロ追跡シーン
私がパリに住んでいたのは1980-1990年代だから、この映画に出てくる1960年代とはさほど変わらない。
特にメトロ(地下鉄)。
長く薄暗い通路と階段、不愛想な切符売り、電車が止まるキィーーーという音、ドアの開閉音、あまりいいとは言えない独特の匂い・・・
尾行されているジェフの行動を追っている私たちにも、視覚・聴覚・ひょっとして嗅覚も動員されてパリの雰囲気が伝わってくる。
殺し屋ジェフが乗ったり、途中ギリギリで下車したりする駅は11番線のテレグラフ、ジュールダン、プラス・デ・フェットなど。
↓の動画ではチューインガムを噛んだ女性から尾行されていることに気づいたジェフが突如、動く歩道から飛び降り、猛ダッシュする場面。
ナタリー・ドロンよりも印象的な謎の黒人女性ピアニスト
この映画にはアラン・ドロンと当時婚姻関係にあったナタリー・ドロンも出ているが、それほど出番があるわけではない。
たしかに別嬪さん(いまや死語!)だと思ったけどね。
そのナタリー・ドロンよりも存在感があったのは、ジャズバーでピアノを弾いている黒人女性だった。
彼女が弾いているナンバーがいかにも60年代っぽいのでYouTubeにアップされているかどうか、ずいぶんと調べたが、残念ながら見つからなかった。
見つかったのは衝撃のラストシーン。
ここでは彼女はハモンドオルガンを弾いていることになっている。
ジェフに銃口を突きつけられ、「Pourquoi, Jef?」(どうしてなの、ジェフ?)とたずねるピアニスト。
「On m'a payé pour ça」(カネがはいるんだ)と答えるジェフ。
ここでバーーーーーン!!!!と響く銃声。
ラストでジェフの弾の入っていない拳銃が大写しになり、私たちは口をアングリあけて驚くことになる。
こんな見事なエンディングの映画はそうそうない。