ラン・ランで聴くドビュッシー「夢想」
ただいまレッスン中のドビュッシー「夢想」の参考とするため、いろいろなピアニストの演奏をYouTubeで聴いている。
まず検索で一番にあがってくるのはラン・ラン。
それはそうでしょ。
現在、クラシック界を代表するアーティストなんだから。
彼はよほどドビュッシーの「夢想」が好きらしい。
彼の編集による「ピアノブック」にもこの曲がはいっているし、パリ/ノートルダム大聖堂でのコンサートでも弾いたのを記憶している。
それを改めて動画で聴いて見ると、テンポはちょっと遅すぎるのではないかと思うほど。
一音入魂で全身全霊を賭けての演奏。
でもね、私はなぜか彼に限らず、ピアニストから恍惚とした表情を見せられると、なんか恥ずかしいのだ。
それで、なんかもうちょっとクールな演奏はないかなぁ、と思って探し続けている。
そこで思いついたのが、サンソン・フランソワの演奏だ。
ひと昔前なら、ドビュッシー、ラヴェルなどフランス近代音楽家の作品ならみな、彼の演奏に倣ったのではないだろうか。
サンソン・フランソワの「夢想」に現れる?な音
そこで彼の「夢想」を聴いて見たのだが、途中「あれれ?」と思うところに遭遇した。
問題の箇所は47小節目の左手トップノートである。
楽譜上はミーレドシーなのだが、なぜかサンソン・フランソワは♭ミーレドシーと
弾いているのだ。
一体全体どうして?
もちろん聴いた人も気がついていて、YouTubeのコメントには
Woah some honkers of wrong notes in there!
(ミスタッチが何か所かあるぞ!)
とか
mais que viens faire ce mi bémol à 1' 35?
(1分35秒で♭ミなんてどうしてでしょう?)
というコメントもある。
それに対して秀逸な返信は
pour y mettre une touch jazzy , sûrement
(きっとジャズっぽい音をいれたかったんでしょう)
というのがあった。
これは気の利いた、好意的なコメントだと思う。
サンソン・フランソワの不思議な音をめぐる想像
どうしてサンソン・フランソワはドビュッシーが書いた音と違う音でレコーディングしたのか?
「間違えました、えらいこっちゃ!」では多分ないだろう。
当時としても録音の撮り直しぐらいはできただろうから。
私が想像するに、彼は大変なアルコール好きだったから、酔っぱらって弾いていたのかもしれない。
そして「あ、ちょっと指が滑った」と思ったが、あとで録音を聴いて見ると、ジャズっぽくて彼の好みだったので(彼のジャズ好きはことに知られている)、そのままそれを残すことにした・・・は、あくまで想像である。
他のピアニストなら私だって、
「そんないいかげんな!」
と怒ったかもしれない。
でも彼ならいいのだ。
だってサンソン・フランソワは、後年ちょっとぶよぶよしてしまったが、もともと水もしたたるいい男だし、今風に言えば、ちょいわるオヤジ風でもある。
下の動画では、感情にまかせて即興でピアノを弾いているが、「男は黙ってピアノを弾く」みたいなCMに使えそうな風情もある。
ちょっとこの色気はランランにはないでしょう。
はぁ~ カッコいい。